Netflix『カウボーイビバップ』は成功と言えるか? アニメ版や近年の実写化作品から探る

 日本のファンには、吹き替え版声優に、できるだけオリジナルキャストを揃えているというサービスも用意している。ジェット役の石塚運昇は惜しくもこの世を去ってしまったが、アニメ版に引き続き、山寺宏一、林原めぐみ、そして若本規夫、高島雅羅らが声をあてているのだ。

 また、原作アニメから引き続き菅野よう子、シートベルツが演奏を担当し、中でも作品の“アイコン”ともいえるオープニング曲「TANK!」を再び蘇らせ、さらには実写でアニメのオープニング映像を再現するなど、少し神経質といえるくらいに原作にリスペクトを捧げている。

GEOFFREY SHORT/NETFLIX (c)2021

 これは時代の流れのなかで、海外のアニメやゲーム、漫画などの文化を軽く見ることをしないクリエイターが増えてきたことと、インターネットを通して批判を受けるケースが増えてきたからでもあるだろう。もちろんそこには、良い面と悪い面が存在するはずである。しかし、本作のキャスティングが示しているように、少なくとも多様な国の原作を白人のスター俳優で実写化するという安易な企画に、作り手の側が異議を唱え始めていることはプラスにとらえるべきだろう。

 アニメ版『カウボーイビバップ』では、ジャズを全体の基調としたスタイルが特徴的だった。それは、直接的にはTVアニメ『ルパン三世』やTVドラマ『探偵物語』からの影響があるといわれるが、その背景に、『黒いジャガー』(1971年)、『フォクシー・ブラウン』(1974年)に代表されるブラックスプロイテーション映画、さらに源流に『007』シリーズなどが存在しているはずである。

KIRSTY GRIFFIN/NETFLIX (c)2021

 そういった意味で、この選択は当時すでにレトロな表現となっていたわけで、そこにさらに異化的なSFの世界観を混ぜ込むことで、本作ならではの特徴が生み出されていたのだ。だが、それが本当にレトロ志向だったと考えるのは早計である。クエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』(1994年)がクリエイターたちに多大な影響を与えていた当時では、むしろそのような姿勢が“流行りの表現”だったともいえるのだ。

 そう考えると、アニメ版『カウボーイビバップ』は、当時からある種の流行を追った“ダサさ”を背負った作品でもあったといえる。しかし、タランティーノの表現すらもいまやレトロなものとして受容されるようになり、郷愁的な70、80年代のポップソングとともに宇宙の冒険が描かれる『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)がヒットを成し遂げた現在、本シリーズに見られる“リスペクト”は、もはや時代の呪縛から解き放たれたものとなったのではないか。

 そもそも、なぜアニメ版『カウボーイビバップ』が、海外の視聴者をも含めた多くの人に支持されたのだろうか。その大きな理由は、このようなバランスの作品が希少だったことが挙げられるだろう。とりわけアメリカの実写映画への“青い”憧れで製作されているといえる、このヒットする要素があまりなさそうな企画に、予算や人員を投じるという当時の決定があり、そこに渡辺信一郎監督やスタッフたちの、やや常軌を逸した量の熱意と労力が投じられたしたからこそ、日本のアニメそのものの絵柄でSFアクションを描きつつ、さらにアメリカ映画の雰囲気が持ち込まれることで、奇妙で多国籍的な作品として、日本のアニメーション作品の中でも際立つものになったのである。

GEOFFREY SHORT/NETFLIX (c)2021

 それを考えたときに、果たしてドラマ版の『カウボーイビバップ』に、そこまでの思い切った何かが存在するかと言えば、嘘になってしまうかもしれない。オリジナルのスタッフを呼び、原作へのリスペクトを示し、物語や名場面を作品に反映させることで、著しい批判を浴びることのない、良くできたシリーズになっている印象が強い。しかし、それだけでは、どこか鮮烈さが足りないことも確かなのだ。少なくとも、実写作品として独自の演出スタイルや、新しいバランスをもっと試すべきではなかったか。

 とはいえ、人気の原作を使用しながら、自分たちの野心を最大限に発揮するには、難しい事情があることも理解できなくはない。幸いなことに、本シリーズにはシーズン2の計画もあるという。それが実現するかどうかはまだ未定だが、Netflixでの視聴数によって、もう一度物語が動き出す可能性があるのである。それならばシーズン1で、ある程度原作の内容を消化したことから、次はオリジナルの展開で、もっと攻めた内容が楽しめるはずなのである。ドラマの作り手の勝負は、むしろそこからなのではないだろうか。

 今後もアメリカでは、『ONE PIECE』、『聖闘士星矢』、『GANTZ』、『機動戦士ガンダム』、『僕のヒーローアカデミア』、『龍が如く』、『君の名は。』など、日本の漫画、アニメ、ゲームなどの実写化企画が進行中であるという。この全てが完成にこぎつけるかどうかは分からないが、いずれにせよ、これからの実写化作品には、原作への一定のリスペクトとともに、それらの作品がヒットした理由である、“挑戦的な姿勢”をも受け継ぐことが求められることになるだろう。

■配信情報
Netflixシリーズ『カウボーイビバップ』
Netflixにて全世界独占配信中(全10話)
ショーランナー・製作総指揮:アンドレ・ネメック
脚本・製作総指揮・企画:クリストファー・ヨスト
監督・製作総指揮:アレックス・ガルシア・ロペス(ep.1、2、5、7、8)
監修:渡辺信一郎
出演(日本版キャスト):ジョン・チョー(山寺宏一)、アレックス・ハッセル(若本規夫)、ダニエラ・ピネダ(林原めぐみ)、エレナ・サチン(高島雅羅)、ムスタファ・シャキール(楠大典)、アイラ・マン(垂木勉)、ルーシー・カリー(長沢美樹)、ロドニー・クック(土師孝也)、メイソン・アレクサンダー・パーク(堀内賢雄)、レイチェル・ハウス(磯辺万沙子)、アン・トルーオン(朴ロ美)、ホア・シャンデ(緑川光)
音楽:菅野よう子
作品ページ:www.netflix.com/CowboyBebop

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