『彼女の私生活』が他のラブコメ作品と一線を画す理由 “オタク”の姿を通じて描く特異さ

 ところで、ドクミはいわゆる一般的なアイドルファンともまた異なっている。K-POPに慣れ親しむ者以外の視聴者にとっては、その一風変わったオタク活動が衝撃的に映るのではないかとも思われるのだが、これは彼女が“ホームページマスター(マスター、ホムマ)”と呼ばれるファンであるからだ。

 マスターとは、アーティストのパフォーマンスや出勤・退勤風景などを撮影してホームページやSNS上で公開するファンのこと。もちろん韓国でも、肖像権問題により個人的な撮影は公で認められていないケースが多い。しかし基本はマナーの範囲内で高いクオリティーの、ファン心をよく理解した写真を提供するマスター活動は一般的なファンによって重宝されるケースも多いことから、芸能事務所からも「グレー」な存在として扱われているというのが実情だ。(本作中でも画像編集ソフトを巧みに駆使するドクミが、シアンの写真を綺麗に仕上げる場面が登場している)こうしたアイドルシーン特有の要素がドラマに持ち込まれている現象は、多様な文化ジャンルがボーダーレスに行き交う韓国カルチャーならではだろう。

 しかしなぜ、本作は“オタク”の姿を通じて描かれるラブコメとして制作されたのか。『彼女の私生活』公式サイトには、こんな興味深い企画意図が綴られている。

ほんの数年前までは「オタク」といえば「家にだけ閉じこもって」住む、「社会性が足りない」人という認識がより強かった。しかし、現在のオタクは能力者と同義語であり、専門家と同じ能力に誰よりも溢れる愛情と情熱で武装した、熱い、今日を生きる人のことを言う。

オタクは熱い心を、あふれる愛を持った人。オタクは愛を与えずにはいられない人。オタクは愛と時間をすべて割いて、空の通帳の殻だけが残ってる人…~愛せよ、オタクのように!(tvN『彼女の私生活』公式サイトより)

 時に周囲から「なぜアルバム300枚も買ったの? 耳が600個ついてるの?」と言われながら、自分の愛してやまないものへ猪突猛進するオタク、ドクミ。社会と“私生活”でペルソナを使い分けるそのライフスタイルは、現代的な愛情表現の手段を捉えるうえでうってつけのモチーフである。そしてそんな彼女がヒロインだからこそ、本作が特異なラブコメ作品として新鮮な質感を呈しているのだろう。

■配信情報
『彼女の私生活』
Netflixほかにて配信中
出演:パク・ミニョン、キム・ジェウク
写真はtvN公式サイトより

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