新作主演映画でカルト指導者に? レオナルド・ディカプリオは再びオスカー像を狙えるか

さまざまな役柄に挑戦するがオスカーとは無縁の時代に

 その後ディカプリオは多くの野心作に出演するが、アカデミー賞とは無縁の時代に突入してしまう。2008年の『レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで』では、ケイト・ウィンスレットと夫婦役で再共演を果たし話題になる。クリント・イーストウッド監督の『J・エドガー』(2011年)では、初代FBI長官ジョン・エドガー・フーヴァーの若き日から74歳までを特殊メイクを使って1人で演じ、注目を集めた。翌年のクエンティン・タランティーノ監督作『ジャンゴ 繋がれざる者』では、極悪な農場主カルヴィン・キャンディをケレン味たっぷりに演じている。しかしどの作品でも、アカデミー賞にはノミネートすらしない。『ジャンゴ』に至っては、ゴールデングローブ賞で共演のクリストフ・ヴァルツに助演男優賞を譲るかたちとなり、ヴァルツは同役で2度目のオスカーを手にしている。まさに不遇とはこのことだ。

初ノミネートから22年越しの初受賞

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 予告編

 そんななか、ディカプリオに再びチャンスがめぐってくる。2013年に主演と製作を務めた『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で、アカデミー賞主演男優賞と作品賞にノミネートされたのだ。彼が演じたのは実在の株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォート。違法な株式売買で荒稼ぎし、ドラッグやパーティ三昧の破天荒な日々を送る彼は、決して好感度の高いキャラクターではない。しかしそんなベルフォートのやりたい放題、苦境に陥る情けなさ、そして懲りずに返り咲く姿は、不思議な清々しさを感じさせる。しかし、主演男優賞は『ダラス・バイヤーズクラブ』で激ヤセしてエイズ患者役に挑んだマシュー・マコノヒーが、作品賞は『それでも夜は明ける』が獲得し、どちらも受賞を逃した。

『レヴェナント:蘇えりし者』(c)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

 そして2015年、『レヴェナント:蘇えりし者』で彼はようやく悲願を達成する。ディカプリオが演じた毛皮ハンターのヒュー・グラスは、映画開始20分でクマに襲われ瀕死の重体を負う。その後、彼を守ろうとする息子を仲間に殺され、生き埋めにされそうになるが、息子を殺した相手への復讐の炎を胸に、過酷な環境のなかで生き延びることを決意する。この作品でのディカプリオの苦労は計り知れない。役作りのために1年半かけてヒゲを伸ばし、世界でも話せる人は10人未満と言われるネイティブアメリカンの言語2種類をマスターした。撮影時は氷点下30℃まで冷え込むこともあり、クマに襲われるシーンはまさかのノースタントで、実際に地面に叩きつけられた。ベジタリアンとして知られるディカプリオだが、劇中では生魚やパイソンの生レバーを口にしている。息子を殺したフィッツジェラルド(トム・ハーディ)との格闘シーンでは鼻を骨折するなど、まさに演技を超えたリアリティで、とんでもない迫力を醸し出しているのだ。ここまでやったかいもあり、彼は初ノミネートから実に22年越しにオスカー像を手にした。5度目のノミネートにして初受賞となったその感慨はひとしおだっただろう。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

 ディカプリオは、2019年のクエンティン・タランティーノ監督作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で落ち目のハリウッドスター、リック・ダルトンを演じ、6度目のアカデミー賞ノミネートを果たす。ブラッド・ピットとの初共演作となった同作で彼は、ピット演じるスタントマンのクリフとは対象的に、過去の栄光にすがり、プライドだけは高い男を演じている。リックは俳優としての将来への不安から情緒不安定にもなっており、メソメソとクリフに泣きつく姿は、これまで彼が演じてきた数々の役柄のなかでもダントツの情けなさだ。イケメン俳優として名を馳せたディカプリオは、この役をコミカルに、リアリティを持って演じている。しかしこの年のアカデミー賞は、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した『ジョーカー』がやはり強く、同作で主演を務めたホアキン・フェニックスがオスカーでも栄光に輝いた。

第77回ゴールデングローブ賞でのレオナルド・ディカプリオ

 悲願を達成した『レヴェナント』以降、ディカプリオは多くの作品で、俳優としてではなくプロデューサーとしての役割を担っている。2001年に彼は制作会社アッピアン・ウェイを設立し、主演も務めた『ギャング・オブ・ニューヨーク』や『アビエイター』などでも製作を兼任してきた。2015年以降にはベン・アフレックが監督を務めた『夜に生きる』(2016年)や、クリント・イーストウッド監督作『リチャード・ジュエル』(2019年)などの製作に携わっている。しばらく俳優として目立った活動のなかった彼だが、2021年から2023年までに4本の映画と1作のミニシリーズに出演することが発表されており、そちらでの活躍にも注目だ。

 さらに彼の最新出演作となるNetflix映画『ドント・ルック・アップ』の配信も12月24日に迫っている(12月10日から一部劇場で先行公開)。巨大彗星衝突という地球の危機を発見した天文学者と教え子が、世界の人々にその事実を何とかして伝えようと奔走するブラックコメディだ。ジェニファー・ローレンスとダブル主演を務める本作で、彼は落ちこぼれ天文学者として新たな顔を見せててくれそう。監督が『マネー・ショート 華麗なる大逆転』や『バイス』のアダム・マッケイということで、本作ももしかしたらダークホースとしてアカデミーに食い込んでくるかもしれない。

Netflix映画『ドント・ルック・アップ』 12月24日(金)より独占配信開始

 新作『Jim Jones』でディカプリオは、宗教と死に取り憑かれた異様な人物を演じることになるわけだが、『アビエイター』などでも見せた生々しい演技を同作でも披露してくれるのだろうか。彼が初めてオスカー像を手にした『レヴェナント』や、それまで彼の受賞を阻んできたほかの俳優たちの演技や作品を見ると、アカデミー賞は役作りとしての肉体改造や、過酷な撮影を乗り越えた俳優たちに贈られる傾向があるようだ。もちろんそれだけではないが、演技そのものだけでなく、そういった点も加味されると考えていいだろう。ディカプリオの新作が具体的にどんな内容になるのか詳細はまだ不明だ。しかし若いころからその実力を認められた彼が、いままであまり行ってこなかった肉体改造などをするとなれば、注目度はさらに高まるに違いない。安易な発想ではあるが、オスカーの行く末を占うには、1つの要素と言える。歴史上最も悪名高い人物の1人を演じるにあたって、ディカプリオはどんなアプローチで挑んでくるのだろうか。演技はもちろん、役作りにも注目したいところだ。

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