松下洸平、『燃えよ剣』『最愛』で異なる顔 演劇界で築いたキャリア活きる“複雑さ”の表現

 さて、そんな松下の姿をリアルタイムで目にすることができるのが、ドラマ『最愛』である。こちらで彼が扮しているのは、とある連続殺人事件を捜査する警視庁捜査一課の刑事・宮崎大輝。彼は、別れ別れになっていた初恋相手の女性・梨央(吉高由里子)と悲願の再会を果たすものの、何の因果か、それは“殺人事件の重要参考人と刑事”という関係でなのだ。本作は吉高由里子主演のドラマではあるが、松下演じる大輝の視点も多く取り入れられる作りになっている。これは恋愛とサスペンスが複雑に絡み合ったドラマであり、松下の演じるキャラクターは作品の中心で、この“複雑さ”を体現しなければならない。

『最愛』(c)TBS

 『スカーレット』への出演以降、松下は自身の重要度を示し続けている。ヒット作『MIU404』(2020年/TBS)の第2話で演じた悲しき殺人者役で注目を集め、その後は『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜(2020年/日本テレビ系)、『知ってるワイフ』(2021年/フジテレビ)といった連続ドラマで、作品の恋愛要素に絡む、物語の中心人物を演じてきた。『MIU404』の加々見崇役も“複雑さ”を抱えたキャラクターであったが、今作『最愛』で演じる大輝という役は、ここ最近の松下が演じてきたキャラクターの中でももっとも多くの「感情」をのぞかせなければならないもののように思う。それはつまり、より“複雑さ”があるということ。ここに、彼が演劇界で築いてきたキャリア/パワーが活きているのではないかと感じるのだ。冒頭にも記しているが、筆者は「この男を知るのが遅すぎた」と深く反省している。

 初めて生で松下の芝居を観たのは、この夏のこと。彼が文化庁芸術祭の演劇部門にて新人賞を受賞した『母と暮せば』の再演の際だ。同作は、母(富田靖子)とその息子(松下洸平)の二人芝居。上演時間の1時間半ほど、松下は舞台上で泣き、笑い、叫び、舞い続けた。圧倒された。そして劇場内にいる誰もが圧倒されているのを、肌で感じた。自身の演じる役の内面に深く入り込み、観客をも引きずり込む。かと思えば、すぐさま異なる感情を提示して観客を突き放し、また引きずり込む。この息子は長崎での原爆投下によって被爆死し、唯一の家族である母の元へ亡霊となって現れる存在だ。彼は、愛する母と自分が、現在どのような関係であるのかを自覚している。だからこそ、その内面は観客が容易に語ることのできないほどの“複雑さ”に満ちている。これを表出させるためには、内面の深い掘り下げだけでなく、自身の演技に対して批評的な視点を持っていなければならないのだろう。そうでなければ、松下のような感情の切り替え方はできないと思う。同時にこれはまだ、映像のフィールドでは発揮する機会を得られていないものと感じた。しかしその機会が、今回の『最愛』でめぐってきたように思うのだーー例の“複雑さ”の表現である。果たしてどう展開していくか。ともあれ、『燃えよ剣』が延期されたことによって、奇しくも映画館とお茶の間の両方で松下洸平の異なる顔を見ることができる現在。これは彼にとって、さらなる追い風になるに違いない。

■公開情報
映画『燃えよ剣』
全国公開中
出演:岡田准一、柴咲コウ、鈴木亮平、山田涼介、尾上右近、山田裕貴、たかお鷹、坂東巳之助、安井順平、谷田歩、金田哲、松下洸平、村本大輔、高嶋政宏、柄本明、市村正親、伊藤英明
脚本・監督:原田眞人
原作:司馬遼太郎『燃えよ剣』(新潮文庫刊)
製作:『燃えよ剣』製作委員会
製作プロダクション:東宝映画
配給:東宝、アスミック・エース
(c)2021「燃えよ剣」製作委員会
公式サイト:moeyoken-movie.com
公式Twitter:@moeyoken_movie
公式Facebook:www.facebook.com/moeyokenmovie

■放送情報
金曜ドラマ『最愛』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉、奥野瑛太、岡山天音、薬師丸ひろ子(特別出演)、光石研、酒向芳、津田健次郎、及川光博、井浦新
脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子
編成:中西真央、東仲恵吾
主題歌:宇多田ヒカル(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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