吉開菜央×石川直樹の偶然を広げる映画作り リアルとファンタジーの融合『Shari』
「偶然が入り込めば入り込むほど面白くなる」
ーー子供たちを対象にしたワークショップもやられたそうですね。
吉開:ダンスのワークショップを子供たち向けにやったんですけど、そこで映画に出演する子を探してスカウトしようと思っていたんです。でも、いざ始めてみると子供たちのエネルギーがすごくて、それどころではなくなりました。3歳くらいから小学校6年生まで40人くらい来ちゃって大変だったんです。
ーーそこではどんなことをやったんですか?
吉開:最終的にはガチンコの相撲です。相撲をしながら、どんどん自分が岩になっていくっていう創作的な相撲。みんなすごく楽しそうにやってましたね。
ーー映画の後半に子供たちが出てきて雪合戦や相撲大会をやりますが、どんどん子供たちの獣性が目覚めるというか、エネルギーが高まっていくのが伝わってきますね。
吉開:確かに! だから赤いやつがやって来ても戦うんですよ。
ーー相撲大会に赤いやつが乱入して、子供たちと熱いバトルを繰り広げる。映画のクライマックスともいえるシーンですが、あれは即興で撮影されたのですか?
吉開:そうです! どっきりです。
石川:子供には何も知らせずに、実際に相撲大会をやったんです。それで最後に赤いやつが出てきて、子供たちと相撲を取る。子供がどんな風に逃げ惑うかとか全く想像できなかったし、1回しか撮影できないから緊張しましたね。
吉開:「ぎゃーっ!」って泣く子もいれば、「わーっ」って抱きついてくる子もいたり様々でしたね。未知のものに出会った時、それを怖がるのか、戦おうとするのか。最初の反応がそれぞれ違う、生き物って面白いなって思いました。
ーーいきなり、初対面でカメラを回したり、雪が少ないことを作品に取り入れたり、子供たちの反応をみたり。その場の偶然を取り入れながら物語を膨らませていったんですね。
吉開:自分で考えたものだけでは足りない。何か予想がつかないことが起こった時に、啓示があるんじゃないかって思っていたんです。私は斜里について何も知らないし、夏に1週間リサーチして、赤いやつを1日で作って、1カ月で撮影するという、ある意味制作期間としてはすごく浅い状態で映画を撮ってる。そこで何かに出会って、その時に何を選ぶかが一番大事だと思っていました。だから、トラブルが起きた方が作品にはきっと良かったんです。
石川:写真も偶然が入り込めば入り込むほど面白くなる。ぼくは意図して作り込んだ広告写真とは対極にあるものをずっと作ってきました。ぼくは、意図付けをして「こう見てくれ」というのはなるべく排し、見る人自身の想像力に委ねられるようなものを作りたいと思ってきました。あらゆる偶然を呼び寄せて、偶然を受け入れながら撮っていくことによって写真の強さが増していくんですけど、そういうアプローチを映像でもやりたいなあ、と。ストーリーのある映画でそういう撮り方が許されるとは思っていなかった。でも、吉開さんは、偶然を取り入れることで自分の想像力の範囲を超えたものが入り込んでくるっていうことを直感的にわかっていたから、こういう映画ができたんだと思います。吉開さんに声かけてよかったなと思いました。
ーーまさに偶然と相撲を取っているみたいですね。石川さんはこの映画で初めて映画の撮影に挑まれましたが、やられてみていかがでした?
石川:なにか特別な準備をしたわけじゃなく、吉開さんが持っていたカメラを使いました。レンズも一本だけ。これまでいろんなカメラを使ってきたので、まあ、大丈夫かと思って。
ーー映像の色合いとか温度感とか、そういったことは吉開さんと何か話はされたのでしょうか?
石川:もともと、自分が思い描いているイメージで絵を作ろうっていう気がまったくなくて。曇りだったら曇りの空を撮ればいいと思っているし。晴れていたら晴れの空を撮ればいいと思っているので、天候待ちみたいなことを写真でもしたことがないんですよ。映像でも、雪がちらついたら雪がちらついているのを綺麗に撮ろうと思う。だから自分で工夫して絵を作ったりはしませんでした。吉開さんが撮ってほしい、というところにカメラを向けて、その場その場で目の前の風景を凝視して、きちんと撮っていくだけでしたね。