江口のりこが放つ、ゆらぐことのない“個性” 『SUPER RICH』でさらに攻める
江口のりこ主演の木曜劇場『SUPER RICH』(フジテレビ系)が、いよいよ10月14日よりスタートする。江口が民放ゴールデン・プライム帯連続ドラマで主演を務めるのは本作が初となる。これまで『半沢直樹』(TBS系)や『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』(日本テレビ系)など、様々な作品でバイプレーヤーとして印象的な演技を見せ、ブレークを果たした江口。
さらに、2021年4月期には『ソロ活女子のススメ』(テレビ東京系)で民放連続ドラマの初主演を果たし、『SUPER RICH』へ……と着実にその活躍の幅を広げてきた印象だ。なぜ今、これほどまでに江口が求められているのだろうか。
飾らない、媚びない、ナチュラルな存在感
江口が出演番組の宣伝を兼ねてバラエティ番組に出演すると、必ずと言っていいほど注目が集まる。それは、彼女がまったくテレビ用の愛想笑いをしないからだ。2020年11月に『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』の宣伝のために、朝の情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)に出演した際も、「生放送初めてなんで。いやですね」とローテンション。MCの加藤から「言わされてるなーみたいな?」って合いの手を入れると、ちょっとバツの悪そうな顔で「そうですね」と正直すぎる受け答えを見せた。
テレビという画面の中では「異色」とも言えるそのテンションに、ハラハラさせられる一方で「こんなふうに自分を貫けたら」と、その割り切りの良さに憧れを抱く人もいたようだ。その我道を行くスタンスが、お一人様を楽しむ『ソロ活女子のススメ』という作品には、まさにハマり役だった。
誰かの視線に振り回されるのは、もううんざり。「普通」の概念にとらわれず、自分らしく生きたい。そう思いながらも、やはり周囲の反応に一喜一憂してしまう現代人にとって、江口の放つ、ゆらぐことのない“個性”が気になって仕方ないのも無理はない。
「次はどんな顔を見せてくれるのか」と、キャスト一覧に江口の名前があるだけで、少しニヤリとしたくなる。求められた役を演じるのが女優の仕事ではあるものの、どこかその予想を超えて、江口ならではのキャラクターが確立されるはずだくれるというワクワク感があるのだ。
人に対する諦めと引いた冷静な眼差し、そしてちょっとのユーモア
2014年2月、江口は笑福亭鶴瓶と即興ドラマを演じるバラエティ『鶴瓶のスジナシ』(CBCテレビ)に出演したことがあった。射的場を舞台に台本なし、打ち合わせなしのぶっつけ本番で演技を繰り広げたのだが、そのやりとりが実に軽妙で痛快だった。
江口は最初、夫婦役を演じようかと思ったそうなのだが、鶴瓶の開口一番のセリフで客とオーナーという役回りに切り替え、徐々に喧嘩腰のやり取りを見せていく。そして最終的には穏やかではない展開になっていくのだが、最後の最後に「アメリカンドック買うといてって言って」とオチをつける見事な締めっぷりを見せてくれた。これには鶴瓶も「これ最高やわ、ホンマ名作や」と絶賛。彼女のウィットに富んだ対応から、改めて女優としての才能を感じずにはいられない。
また、途中でこんなやりとりもあった。鶴瓶扮する感じの悪い男の対応に「万引きに間違えられたことあんねん」と一言。それは実際に江口が万引きGメンと思われる女性から「盗ったでしょ」と、濡れ衣を着せられたことから出てきたセリフだという。それ以来、何かが紛失したという知らせを聞くたびに、自分は関係ないにも関わらず「ヤバい、間違えられる!」と顔がカーッとなる感覚に襲われるとも。
日常に生まれては消えていく、小さな毒とイヤな汗。そのなんとも言えない感覚を、江口は冷静に見つめているように感じる。だからこそ、人に対してどこか無駄に期待をしない諦めのような冷ややかさを、彼女の眼差しに見るのだ。そして同時に「アメリカンドッグ」という言葉の持つ柔らかくて温かい感触も知っている。その振れ幅が、彼女の演じる役柄に独特の人間臭さを嗅ぎ取ることができるのではないだろうか。