『偽りの隣人』の根底にはチャップリン? イ・ファンギョン監督が語るコメディの必要性

誰でも権力を大なり小なり持っている

ーーウィシクとデグォンが直接言葉を交わすようになってからも、デグォンは自身の正体を明かすことができません。そのやり取りが滑稽でもあり、切なくもありました。

イ・ファンギョン:ウィシクがデグォンの正体に気づいていないからこそ生まれる勘違いやすれ違いがコメディの醍醐味でもあります。なので、ウィシクを演じたオ・ダルスには、「もしかしたら……?」という気持ちはあっても、終盤まで本当に気づいていないという思いで演じてほしいと伝えていました。ウィシクの人柄に惹かれたデグォンが自身の正体を明かそうとするシーンがあります。ここで、ウィシクは「君には君の道がある。することがあるんだからそれをしてほしい。私には私のすることがある」と伝える。ウィシクはデグォンがその告白によって彼に危害が及ぶことを理解していたからです。自分の安全よりも、監視していた相手のことを思いやれる。ウィシクの政治家としての器量、心の広さを表したいと思った台詞でした。

ーー終盤、心で繋がったウィシクとデグォンが、“水虫”という共通点があったのには笑ってしまったと同時に、脚本の巧みさに感動しました。なぜ、“水虫”を?

イ・ファンギョン:実は私も普段から水虫に悩まされているんです。そしてこの映画を作った制作会社の代表の方も水虫持ちだったんですよ(笑)。お互いそのことは話さないから分からなかったんですが、ある時同じところに泊まることになりまして、お互い水虫があるということを知って。そのとき、「やっぱり人間だものね」という話になりまして。人の人生というのはお金や権力が有る無しに関わらず、やはり同じものなんだということをその時に強く感じたんです。これは今回の作品にも生かせると感じて、取り上げることにしました。

ーー軍事政権によって失われてしまった命も多くありました。改めて、国家、そして権力を持つ者が大切にしなければいけないものは何だと感じますか?

イ・ファンギョン:ちょっと笑える話になってしまうかもしれないですけれども、権力は水虫に例えられるような気がするんですね。権力というのは有る無しや大小に関わらず、誰にでも持ちうるものだと思います。それと同時に、水虫も誰でも罹る可能性はありますよね。水虫は人から人へと感染していきます。でも、そうならないように気をつけて自分自身で治療することも可能です。権力もそれと同じで、人にひけらかすことによって悪い方へ悪い方へとどんどん流れていってしまう。水虫と同じように、権力を自分自身でコントロールできるか、それがとても大事だと思います。

■公開情報
『偽りの隣人 ある諜報員の告白』
シネマート新宿ほかにて公開中
監督:イ・ファンギョン
出演:チョン・ウ、オ・ダルスほか
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
2020年/韓国/韓国語/130分/シネスコ/5.1ch/原題:이웃사촌 /英題:BEST FRIEND /日本語字幕:安河内真純/
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公式サイト:itsuwari-rinjin.com

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