『#家族募集します』にじやの面々による“特別な思い出” 真の家族となる試練の始まりも?

 特別な思い出。それは、みんなで食べた高級メロンの味。海で作った大きな砂のお城。おじいちゃんを独り占めして入った銭湯の大浴場……。日常のなかにときどき訪れるレアで眩しくて忘れたくない時間。私たちはそんな幸せな瞬間を胸に一生を生きていくことができる。

 『#家族募集します』(TBS系)第7話では、にじやの店主・銀治(石橋蓮司)に注目が集まった。これまでおじいちゃん的存在としてにじやの家族を見守ってきた銀治は、頑なに2階に足を踏み入れなかった。それは、銀治の“本当の”家族との思い出が詰まっていたから。そこに足を踏み入れれば途端に蘇る家族との時間。今はいない家族と何があったのか。全ては語られてはいないが、きっと俊平(重岡大毅)が亡き妻・みどり(山本美月)のスーツケースを開けられなかったように、その思い出と向き合うには何年もの時間が必要だったのだろう。

 仕事での挫折を経験したことで、娘のいつき(板垣樹)との時間が取れるようになった黒崎(橋本じゅん)に「いいことも悪いこともとんとんならば御の字」と諭す姿も印象的だった。人生はいいことばかりではない。むしろ楽しい日々は当たり前のように過ぎ去り、苦しく悲しい出来事のほうが長い時間心を締め付ける。だから、いいことと悪いことが同じくらいならそれは十分幸せだということ。長く生きてきた人生の大先輩の言葉が重く響いた。

 そんな銀治の手を引いて2階へと誘ったのは、めいく(岸井ゆきの)の息子・大地(三浦綺羅)だった。めいくの経済的な事情もあり、他の子どもたちと一緒に海に行くことができなかった大地。だが、その代わりに銀治のことを独り占めできたと嬉しそうに手を繋ぐ。「狙ってた!」と言ってのける姿に、いつも聞き分けのいい大地の無邪気な一面が垣間見えて、こちらまで嬉しくなってくる。特別な思い出は、いつもの家の中でも作ることができる。まだまだ「ステイセーフ、ステイホーム」が続く2021年の夏にグッとくるものがあった。

 もちろん特別な場所に行くことができるのであれば、それこそ二度と巻き戻せない貴重な夏の思い出だ。仕事ばかりしてきた黒崎が、自分の建てたホテルを娘に見せることができるのも、おそらく今年の夏でなければ叶わなかったことだろう。娘が父と「2人きりで海に行きたい」と言ってくれる年頃は短い。そして、いつきにはゆくゆくは母親のもとに行かなければならないという期限もある。子どもの成長と、大人の事情、そして行きたいところに行くことができるという環境が整うタイミングというのは、決して当たり前ではない奇跡なのだということを私たちは知っている。だが、それがもし叶わなかったとしても絶望することはないのだと、大地の屈託のない笑顔に励まされたような気がした。

関連記事