何でもないのに何かがおかしい 柄本佑×黒木華『わたとな』はホラーとしても秀逸
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、不倫映画好きな北村が『先生、私の隣に座っていただけませんか?』をプッシュします。
『先生、私の隣に座っていただけませんか?』
人間の憎悪や執着から生まれる言動は何よりも恐ろしく太刀打ちできないものであるはずで、だからこそ不倫ドラマや映画にはとことんホラーであってほしい、と個人的には思います。今回オススメする『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は夫に不倫された主人公の復讐劇。本作もまた“なんかいや〜な感じ”が終始漂っていてホラーとしての魅力満載でした。
夫・俊夫(柄本佑)と主人公の担当編集者の千佳(奈緒)との浮気現場を目撃してしまった妻・佐和子(黒木華)が、「不倫」をテーマに新作漫画を描き始めることから展開していく物語。和子や千佳に翻弄される俊夫の様子はなんともおかしくて憎めないですし、登場人物が特別奇人なわけでもない。内容だけ切りとれば復讐爽快ムービーにも取れなくないのですが、それをじめっと重々しく描いていくところが本作の特徴。額から流れるジトっとした汗、異様に暗い佐和子の実家、時折響く不協和音……全てがいい意味で気持ち悪い。佐和子がある日突然失踪してしまっても、俊夫以外誰も慌ててなくてカラッとしているのも不気味です。
佐和子の実家で食事をするシーンは特に秀逸でした。食卓シーンは何度もありますが(それもまた異様)料理がフォーカスされることはありません。佐和子の母親(風吹ジュン)が作った芋煮を俊夫は「美味しいですね!」なんて喜んで食べるのですが、こちらから観たら美味しい料理が並んでるようには見えない(この芋煮を千佳も食べることになるのですがあのシーンは怖すぎて笑えます)。それに夜でも全く灯りを付けない。広いリビングにペンダントライトがちょろっと灯っているぐらいで、こんな場所で食事するのちょっと嫌だなという感じ。この母親は誰か殺そうとしてるんかなと勘繰ってしまう緊張感が漂います。何が起きるでもないのに何かがおかしい。人間の根底にある怖さが巧みな演出によってあらわになっていくようでもあります。