『花束みたいな恋をした』とも重なる『恋の病』 主人公から学ぶ他者との向き合い方

 ボーチンを演じたのは、役所広司主演の映画『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』や2014年のドラマ『金田一少年の事件簿 獄門塾殺人事件』にも出演していたリン・ボーホン。彼は退屈な日々を生きていた無表情のボーチンが、ジンと出会ったことで輝きを取り戻していく姿を愛らしく表現した。

 さらにボーチンは少しずつ段階を踏んで変化していくが、新たな世界への好奇心に抗えず、ジンに対する愛情との狭間で揺れ動く様をたっぷり見せてくれたことで彼を簡単には憎めなくなってしまう。

 妻夫木聡と豊川悦司W主演による『パラダイス・ネクスト』でヒロインを務めたニッキー・シエも常に虚勢を張り、だけど人を惹きつけるオーラを持っていたジンが、ボーチンの変化に伴って自信を失っていく様を熱演。劣等感や不安に苛まされるジンは痛々しくも、共感せずにはいられない魅力を持っている。

 キャスト・スタッフがボーチンとジンを“偏人”と表現し、温かみのある視線で描いているからこそ、観る側は後半、さらに終盤に訪れるドンデン返しで虚無感に襲われるだろう。人と違っていたって、2人が幸せならいいじゃないか。不器用で愛くるしいボーチンとジンのままでいてくれ、と身勝手にも思う。2人自身が外の世界に憧れ、変わろうとしていたことも忘れて。

 最後に『恋の病』は、私たち全員に“課題”を出す。変わっていくことが罪ではないなら、相手の好きだったところが消えてしまった時にどう受け止めるか。また自分の変化を自覚したら、せめて相手のためにできることは何か。恋に落ちて、傷つかないことなんて一度もない。それでも人を必要としてしまう甘くてちょっぴりビターな“私たちの”物語だ。

■公開情報
『恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜』
シネマート新宿・心斎橋ほか全国順次公開中
監督・脚本:リャオ・ミンイー
出演:リン・ボーホン、ニッキー・シエ
配給:エスピーオー、フィルモット
2020年/台湾/カラー/100 分/ビスタサイズ/5.1ch/原題:怪胎/英題:I WeirDO
(c)2020 牽猴子整合行銷股份有限公司 滿滿額娛樂股份有限公司 台灣大哥大股份有限公司
公式サイト:filmott.com/koiyama
公式Twitter:@filmott

関連記事