『ワイスピ』シリーズ独自の演出を徹底分析 受け継がれるのは家族の絆だけじゃない?

 やはり、こういった過去作からの流れを汲んだキャラクターの描写や動きの繋がりは、特に第3〜第6作をジャスティン・リン監督が続けて手がけた頃から色濃くなっている。同一の監督が撮ることでしっかりと世界観が確立され、人気が低迷していたシリーズは一気にブロックバスター映画にまで進化していった。だからか、特にこの間の作品では、製作側の意図というより、ちゃんとキャラクターたちが各々過去の自分の計画をアップデートして動けているのがすごくいい。例えば、3作目の『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』以降、これまでの作品に比べファミリーがカーチェイス中のドリフト描写が増えるなど、前作のテーマとなった“技”をしっかり活かしているのだ。

 特に大きな流れを作ったのは、『EURO MISSION』でショウ一味の車を改造していた工場でゲットし、ハンが「新しいオモチャだ」とテズに渡したお土産のチタン・ワイヤー発射機。早速テズが動力装置を強くしてニトロタンク付きにしたものをローマンが遊んで誤射してしまったそれは、クライマックスで離陸しようとする飛行機と車を繋げる役目を果たし、ここで“飛ぶ車”の発想が出てくる。この経験を思い出したテズが次作の『SKY MISSION』の作戦で、難攻不落の地に“空から”侵入するために飛行機から車でダイブすることを思いつく。しかもこの時に皆が乗っている車は、前作のデッカード戦を活かして銃弾に強化されたもの。ここにも、復習が効いている。そして後に敵が使ってくるドローンの小型“ジェット”ミサイル機を見たローナンの「戦車に飛行機、次は宇宙船?」という観客のツッコミを代弁するような発言が、しっかり『ジェットブレイク』の伏線になっているのも面白い。

 また、前作から目立っていたホブスの戦闘スタイルに感化されたかのように、ドムとデッカードのラストの決着も含めこの頃になるとカーアクションに並ぶくらいゴリラとゴリラの肉弾戦のようなアクションシーンが増えた。そして『ワイルド・スピード ICE BREAK』では防弾ガラス加工や、装甲車カスタムは勿論、肉弾戦や空の上(飛行機)での戦いと、今まで都度登場してきた新しいものは当たり前になっている。元はといえば、単なる一介のDVDプレイヤー強盗のチンピラ集団だったドム・ファミリーが、そこに至るまでに気づけば最強の先鋭部隊になっているのだ。そのキャラクターたちの成長っぷりには、目を見張るものがある。こんなふうに、とりあえずただ激しくてド派手に作られたかのように見えるカーチェイスやアクションシーンが、実はこれまでの作品を踏まえた上でかなり緻密に構築されているものであることがわかり、そのクラフトマンシップに脱帽せざるを得ない。

 そうやって紡がれてきた演出は、シリーズの核となる“家族”にも呼応していく。1作目から、擬似的なドムを中心としたファミリーが築かれ、そこでブライアンとミアが本当の家族になったり、『スーパーコンボ』ではシリーズの敵として登場したショウ家という新たなファミリーとホブスの生まれ故郷のファミリーに焦点が当てられたり。そしてついにシリーズ最終章に近い最新作『ジェットブレイク』では、作品を追うごとに“ファミリー”を守ってきた男の“家族”の物語に辿り着いた。父の死を巡って、弟のジェイコブと強く憎しみ合うドム。しかし、ラスト怒涛のカーチェイスの末に「俺がいる」と兄のピンチを救ったジェイコブを、彼もようやく認めることに。そして、1作目でブライアンに心を開いたドムがガレージで嬉しそうに「親父と作った」とお披露目したのが懐かしい、900馬力パワーの愛車クライスラーのダッジ・チャージを譲り渡す。亡き父から継承されたそれは、シリーズの中で何度も大破しては修理を重ね、パワーアップし、ついに血縁というドムの“家族”に継承される。過去作の登場人物が勢揃いするなど、これまでの演出の総復習が描かれつつ、ここにきてまさかの「車が運転できないキャラ(ラムジー)」という新しい描写もあった『ジェットブレイク』。シリーズのアップデートと挑戦という文脈としても、車というものを媒介に描かれてきたそのヒューマンドラマとしても、本作が現時点における集大成的な作品となったことは確かだ。

■公開情報
『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』
全国公開中
出演:ヴィン・ディーゼル、ミシェル・ロドリゲス、タイリース・ギブソン、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、ジョン・シナ、ジョーダナ・ブリュースター、ナタリー・エマニュエル、サン・カン、ヘレン・ミレン、シャーリーズ・セロン
監督:ジャスティン・リン
脚本:ダン・ケイシー
キャラクター原案:ゲイリー・スコット・トンプソン
製作:ニール・H・モリッツ、ヴィン・ディーゼル、ジェフ・カーシェンバウム、ジョー・ロス、ジャスティン・リン、クレイトン・タウンゼント、サマンサ・ヴィンセント
配給:東宝東和
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