『おかえりモネ』百音と菅波先生、2人に生じるズレ 災害によって問われる想像力

 百音の頭にあったのは祖父・龍己(藤竜也)のことだった。カキの養殖をしていた龍己は震災で壊滅的な被害を受け、なんとか建て直してようやく軌道に乗りつつあった。朝岡も現地の人々の苦労を知っている。気候変動がそれまでの日常を一変させるということの意味には、家屋や財産だけでなく仕事や故郷を失うことも含まれている。そういった事情は人によって異なっており、想像力をフルに働かせ具体的に考えることが必要になってくる。

 しかし、この考えるという行為がやっかいだ。朝岡の話を、菅波は「深刻な問題に対処するには、当事者ではない人間の方がより深く考えるべき」と解釈する。理由は「今、痛みを抱えている人や近しい人は、考えることすら辛いでしょ? だから医者のような人間が、たとえ厳しい選択でも患者さんのために考えて決断する」。菅波は専門家としてできることを模索しており、そこにはホルン奏者の宮田(石井正則)を救えなかった自身の苦い経験があった。けれども百音はそこに温度差を感じる。命に危険が及ぶような環境からは離れた方がいいという意見に「先生はいつも正しいですけど、少し言い方が冷たい」と返した。

 百音と菅波の会話がかみ合わないのはいつものことだが、2人のズレがどうにも気になる。百音が言いたいのは相手に寄り添うということで、菅波は正しいかどうかにこだわっている。たとえ解決にならなくても、その場所にいて向かい合うことで変わることもある。背中に手を当てるような温かさを菅波も必要としているし、間違っていないとわかっても、百音の中からは「離れてよかったのかな」という思いが消えない。それでも、こうして少しずつ言語化することでしか2人の距離は縮まらないのだ。

 穏やかな日常と真摯なやり取りのさなかに、不意にハプニングが起きるから『おかえりモネ』は楽しい。サングラスを外して無理に笑顔をつくる耕治(内野聖陽)の登場が次なる嵐を予感させる。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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