岸井ゆきのは気づけばそこにいる 『#家族募集します』に至る活躍の背景に“笑顔”と“声質”?

根底の安心感を形づくる“笑顔”と“声質”

『愛がなんだ』(c)2019 映画「愛がなんだ」製作委員会

 2019年には主演映画『愛がなんだ』が公開され、大ヒットを記録した。岸井が演じたテルコは、マモちゃん(成田凌)に一途に恋をする、恋をし過ぎてしまう、他のことが全く目に入らないほどに追いかけ続けてしまう役。しかしマモちゃんはテルコになかなか振り向いてくれない。好きの度合いが浮世離れしているがゆえにイタさや暗さが全面に出てしまう可能性のあるキャラクターだけれど、素晴らしかったのはテルコが終始明るかったことだ。親友の葉子(深川麻衣)はうまくいっていないテルコにこう言葉をかける。

「あんたのいいところはさ、どんなにどん底ってときもちゃんとお腹減って、死にたいとか冗談でも言わないとこだよね」

 失恋しても仕事を辞めても、ご飯を食べることと笑顔だけは逃げていかない。そうしたテルコの性格を可能にしているのは、演じる岸井もまたその“無為の明るさ”を保有しているからだろう。共演した成田凌は岸井のことを「パッと岸井さんのことを考えると、“笑顔”が出てくるんですよ。それが素敵ですよね。笑顔が似合うというか」と表現している(参照:岸井ゆきの×成田凌が語る、『愛がなんだ』の綿密な演技 「リアルさにもちゃんとした意思がある」)。たしかに、岸井ゆきのという人を頭に思い浮かべると、当然のように笑顔をしている。

『愛がなんだ』(c)2019 映画「愛がなんだ」製作委員会

 『まんぷく』で14歳の少女を演じることに成功したのも、この優しく包み込まれるような笑顔があったからだろう。それともうひとつ、役者を語る上での常套句ではあるがその特別な「声質」も寄与したはずだ。岸井はとりわけ音域が広く、その使い分けが巧みなように思われる。聞き比べてみれば、初登場時と終盤の声の高さや質の違いに気づくはずだ。

 声の素晴らしさで言えば、『愛がなんだ』冒頭の、マモちゃんから電話がきて嬉しいけどその喜びを悟られないようにうまく調整する声も凄まじかった。彼女の声にもっと触れたい人には川上未映子の小説集『春のこわいもの』のオーディオブックをおすすめする。著者の川上も「私は雑踏のなかで岸井さんの朗読を聴きましたが、聴き始めて一瞬で空気が変わって、人の声というのはこんなに力を持つものだと教わりました。本当に素晴らしい」(【川上未映子×岸井ゆきの】声を聴き、音で読む。小説の新たな可能性を広げて(後編)|BAZAAR)と絶賛するように、朗読を担当する岸井の声の深さを体感できるはずだ。

 現在は『#家族募集します』(TBS系)に出演中。シングルマザーとして6歳の息子を育てながらシンガーソングライターを夢見る横瀬めいく役を演じている。第2話では育児を放棄して夢を追ってしまうのか、というヒヤッとする展開もあったが、それが杞憂に終わることは岸井の根底にある安心感が証明してくれていた。

 バイプレイヤーとしての活躍も目を見張るものがあるが、欲を言えばまた彼女の主演映画を見せてほしい。彼女の表情や声色の鮮やかさは、大きなスクリーンでこそより厚みを増して体感することができるはずだ。

■放送情報
金曜ドラマ『#家族募集します』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:重岡大毅(ジャニーズWEST)、 木村文乃、仲野太賀、岸井ゆきの、佐藤遙灯、宮崎莉里沙、三浦綺羅、丸山礼
脚本:マギー
演出:福田亮介、村尾嘉昭
プロデューサー:佐久間晃嗣、岩崎愛奈、那須田淳
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

関連記事