長内那由多の第73回エミー賞予想! リミテッドシリーズ部門

“新興”ディズニープラス、『ワンダヴィジョン』で初受賞なるか エミー賞最大の激戦区予想

 海外ドラマといえば人気が続く限りシーズンが継続され、追いかけるのが大変というイメージを持っている人も少なくないと思う。しかし、近年はその傾向もだいぶ変わりつつある。ショーランナーと呼ばれる脚本家の権限が強まり、安易な継続よりも物語のための然るべき結末が優先されるようになってきたのだ。またハリウッドの人気俳優、映画作家のTVシリーズ進出により、多忙な彼らのスケジュールを押さえるためにもトレンドは1シーズン限定のリミテッドシリーズに移りつつある。

 今年のエミー賞候補を見渡すと、過去数年間に渡って連覇してきた『ゲーム・オブ・スローンズ』のような超大作の姿がなければ、『ベター・コール・ソウル』、『メディア王~華麗なる一族~/サクセッション』、『マーベラス・ミセス・メイゼル』といった人気タイトルがコロナの影響により撮影が中断したため不在。一方、リミテッドシリーズには大ヒット作から問題作までバラエティ豊かな作品が揃い、どれが受賞してもおかしくない今年最大の激戦区となった。

『ワンダヴィジョン』(c)2021 Marvel

 “新興”Disney+(ディズニープラス)からは、人気のマーベル・シネマティック・ユニバース初のTVシリーズ『ワンダヴィジョン』がノミネートされた。舞台は郊外の閑静な住宅街。ここにワンダとヴィジョンの新婚夫婦が越してきて……。往年の名作『奥様は魔女』、『ザ・ディック・ヴァン・ダイク・ショー』など60~90年代のシットコムドラマにオマージュを捧げ、エピソード毎にその撮影スタイルも踏襲するユニークな本作。TVドラマ愛に満ちた作品であり、そのスタイルの理由が明らかとなる第9話は涙なしでは見られない。ノミネート総数では今年第2位の23候補に挙がり、Disney+初の作品賞獲得を目指す。

『クイーンズ・ギャンビット』PHIL BRAY/NETFLIX (c)2020

 続く18候補に挙がったのはNetflixの大ヒット作『クイーンズ・ギャンビット』。日本を含む世界中で話題を呼んだ2020年を代表する1本だ。1960年代、天涯孤独の少女ベスがチェスの才能に目覚め、並み居る強豪を打ち破って世界チャンピオンの座を目指していく。『アウト・オブ・サイト』『ローガン』などで知られる名脚本家であり、本作では全話の監督も務めるスコット・フランクの王道ストーリーテリング、当時の時代風俗を徹底再現した衣装・美術、名撮影監督スティーヴン・メイズラーの素晴らしいカメラと全ての要素が揃った文句なしの傑作だ。そして主演アニャ・テイラー=ジョイを世界的スターへと押し上げた記念碑的作品としても記憶されるべきだろう。次世代のスター候補と目されてきた彼女が映画ではなく、TVシリーズで大ブレイクにしたことに、ストリーミングオリジナルドラマ時代の全盛が象徴されている。

『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』(c)2021 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

 続く16ノミネートはHBOによる『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』。少女殺人事件を発端に田舎町の人間関係が暴かれるサスペンスだ。近年、ハイコンテクストで複雑な作品が主流を占める中、本作はケイト・ウィンスレット演じる主人公メアのキャラクターをとことん掘り下げ、事件の真相と共に彼女の心の旅路を描いていく。ウィンスレットにとって新たな代表作と言える名演であり、演技部門では主演女優賞他、ジーン・スマートが助演女優賞、そして『ワンダヴィジョン』にも登場したエヴァン・ピーターズが助演男優賞にノミネートされた。前述の通り、今年は本命作を持っていないHBOは受賞に向けて全力投球のPRとなるだろう。

『地下鉄道 ~自由への旅路~』

 今年のノミネートで最も納得がいかないのは『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督作『地下鉄道~自由への旅路~』がたったの7候補に留まったことだ。オルソン・ホワイトヘッドの原作小説を映像化した本作は南北戦争時代、“地下鉄道”によって北部を目指した逃亡奴隷コーラの受難が描かれる。“地下鉄道”とは当時、奴隷をカナダへと脱出させた組織による秘密ルートを指す暗号であり、昨年公開された映画『ハリエット』でもこの過程は詳しく描かれている。ところが、本作では19世紀の洞窟を本当に鉄道が走る。黒人奴隷の歴史を俯瞰する一種のファンタジーであり、ジェンキンスの美学と堂々たる演出が結実した2021年最高傑作の1本だ。にもかかわらず素晴らしい演技を見せた俳優陣のノミネートはゼロに終わっている。個人的には第3話に登場するデイモン・ヘリマン(『マインドハンター』)の悲痛が忘れがたく、エミー賞には大概にしてもらいたいと言うほかない。

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