Netflixがコメディで苦戦? シットコムの衰退と配信作品ならではの難しさも
シットコムの苦戦
今回打ち切りが発表された4作品すべてがシットコムだということにも注目したい。前述のとおり、Netflixはこれまでコメディでもオリジナルのヒット作を連発してきたが、そのうち5シーズン続いた『フラーハウス』や、8シーズン続いたアシュトン・カッチャー主演の『ザ・ランチ』(2016年~2020年)などを除けば、シットコムは多くない。2018年には、『ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則』などのチャック・ライリーが製作を手掛け、キャシー・ベイツが主演したシットコム『ハイ・ライフ』も1シーズンで打ち切りになっている。かなり尖った内容だったとはいえ、売れっ子クリエイターと名女優を迎えたシリーズも容赦なく打ち切られてしまったのだ。長くつづくことだけが面白い作品である証拠ではないが、少なくともNetflixは再生回数や評判をもとにシリーズ継続可否を決めているはずだ。
実はシットコムが苦戦しているのは、なにもNetflixに限ったことではない。80年代~90年代のブーム時に比べ、明らかに製作されるシットコムの作品数は減っている。2000年代には1話1時間程度、1シーズンかけて壮大な物語を描くシリアルドラマが躍進し、視聴者の好みは多様化した。1話30分程度で完結するシットコムは、その多くが家族や友人間の“愉快なエピソード”と見られ、より複雑なストーリーを好む視聴者は遠ざかっていったのだ。もちろん先述した『ビッグバン★セオリー』や『モダン・ファミリー』などの例外はあり、キャストやキャラクター、ストーリーに現代的な多様性のあるものはヒットしている。
配信作品ならではの製作の問題点
一方で、“イッキ見”が主流になった配信作品ならではの難しさもある。一般のテレビ番組は、基本的にお試しとしてパイロット版を製作・放送する。そこで視聴者の反応を見てブラッシュアップし、正式にGOサインが出るのだ。もちろんここで本放送には至らない番組が出てくる場合もある。しかしNetflixの企画開発ではそうしたステップがなく、1シーズンすべてを製作してから配信、視聴者の反応を得ることになる。これは製作側にとっては、一長一短だ。1シーズン一気に製作するのであれば、クリエイターはやりたいことをやりたいようにできる。そのかわり視聴者が気に入らなければ、あるいは再生回数が少なければ、すぐに打ち切りになる。これまでのようにパイロット版を見た視聴者の意見を参考に手を入れ、その後も製作と放送が並走している場合、視聴者の声でプロットが変更になることは少なくなかったようだ。そうすると番組自体は長く続くかもしれないが、クリエイターのやりたいことと乖離していく可能性がある。これは、Netflixだけでなくほかの配信サービスのオリジナルコンテンツにも言えることだ。だからこそ、オリジナルコンテンツは多くの予算を投じてクオリティの高いものを製作する必要がある。そのために人気のないものはどんどん打ち切りにしていくのだろう。
今回4作品の打ち切りを決定したNetflixだが、『The Crew(原題)』で主演を務めたケヴィン・ジェームズや『ボンディング』のクリエイター、ライト・ドイルと新たに契約を結んだことも明らかになっており、決して後ろ向きな決断ではなかったことがうかがえる。『グレイス&フランキー』はシリーズ継続中で次の展開が待たれているところだ。配信作品特有の難しさもあるが、今後も新たな人気コメディシリーズが生まれることを期待したい。
■配信情報
『Mr.イグレシアス』
Netflixにて独占配信中