ラウールが“超人”役で名言/迷言を連発 『ハニーレモンソーダ』に詰まった幸福な瞬間
本作を手がけた神徳幸治監督の作品はこれが3作目で、『ピーチガール』(2017年)、『honey』(2018年)でも、やはり常識を超越する男子と、不器用な女子との恋模様が描かれてきた。前者では伊野尾慧がこれに当たる好男子を演じ、後者では平野紫耀がこのポジションに当たった。平野が演じた鬼瀬大雅という人物は、赤髪がトレードマークの少年で、誰もが恐れる存在だが、じつはこれは戦隊モノのレッドに憧れてのことだという。筆者はこの映画の原作を読んだうえで鑑賞したが、実際に生身の人間がこういった言葉を口にするのを目にすると、形容しがたい驚きがある。感動がある。畏怖の念を抱いてしまう。いかにもマンガのキャラクターならではの発言かもしれないが、これくらいに自身の独自の世界観を持った人間でなければ、他者の世界(人生)を変えることなどできはしないだろう。『ハニレモ』における界もまた、そのような“超人(スーパーマン)”なのである。
よく中学・高校時代にスピッツの「空も飛べるはず」を合唱したものだが、いまの学生も音楽の授業や合唱コンクールで歌ったりしているのだろうか。おそらく筆者と世代の近い方ならば、この楽曲と学生時代の記憶とは強く結びついていることだと思う。しかし実際に、「(空を)飛べる」などと思ったことはない。この「飛べる」という発想を持つことができないのは凡人の証である。もちろん、界は空を飛ぶわけではない。とうぜんながらこれは比喩なのだろう。しかし界自身は、いたって本気だ。もし羽花のために「飛べ」と言われれば、彼なら後先考えずに飛ぶだろう。誰かのために「飛べる」という意気地のないような人間に、世界は変えられないのである。こう捉えてみたときに、界の発言のいちいちが切実さをもって迫ってくるのだ。
さて、本作で展開する恋模様について、“シュワシュワと綴られている”と冒頭に記したが、炭酸はいつか抜けてしまうものである。「恋愛」というものの多くもそうなのだろう。すぐに鮮度は落ちる。しかし本作には、永遠に閉じ込めてしまいたいような幸福な瞬間がキュッと詰まっているのだ。いまにも吹きこぼれそうな、シェイクされた状態で。
■公開情報
『ハニーレモンソーダ』
全国公開中
原 作: 『ハニーレモンソーダ』村田真優(集英社『りぼん』連載)
出 演:ラウール(Snow Man)、吉川愛、堀田真由、濱田龍臣、坂東龍汰、岡本夏美
監 督:神徳幸治
脚 本:吉川菜美
主題歌:「HELLO HELLO」Snow Man(avex trax)
企画・配給: 松竹
制作:オフィスクレッシェンド
(c)2021「ハニーレモンソーダ」製作委員会 (c)村田真優/集英社
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/honeylemon-eiga/