『エール』は今も視聴者の心に響き続ける 総集編は窪田正孝の変化、古川琴音の好演に注目
息を呑むほどの迫力で描かれた戦争描写は、朝ドラとしては異例の生々しい演出に再放送が決まるほどの反響を呼んだ。戦地で裕一が見たのは地獄のような光景。そこには恩師・藤堂先生(森山直太朗)を目の前で失うという、つらい記憶があった。裕一が作曲に目覚めるきっかけにいた藤堂は大人になってからも良き相談相手として音楽の道に進むことを応援してくれていた人物。そんな藤堂と裕一が戦地で再会し、裕一がビルマで戦う兵士たちのために書いた曲「ビルマ派遣軍の歌」を藤堂が歌う流れは、感動よりもこれから訪れる悲惨な展開を予感させる異様な緊張感が漂っていたのを記憶している。そんな大役を務め上げた森山直太朗は、この『エール』で役者デビュー……と言っても過言ではないほど、数少ない出演経験(と演劇風の音楽ライブ)から抜擢された。それは歌い手としての部分が大きいのは言うまでもないが、情熱的で優しい心を持つ藤堂を見事に演じきった森山の人選も素晴らしい。8月からはドラマ『うきわ -友達以上、不倫未満-』(テレビ東京系)への出演も決定している森山。この機会に改めて彼の演技に注目が向いている。
この『エール』を通して森山と意気投合したのが久志を演じる山崎育三郎。森山が作詞・作曲を手掛けた山崎のシングル曲「君に伝えたいこと」は、“藤堂が久志に贈る歌”として書かれた、大切な人との別れの歌。さらに、そのシングルのカップリングに収録されたのが「栄冠は君に輝く」だ。久志が甲子園のグラウンドで「栄冠は君に輝く」をアカペラで熱唱するシーンは多くの視聴者が感動の名場面として焼きついているはず。キラキラ輝く“プリンス久志”は、ミュージカル俳優として活躍する山崎にしか演じられない役柄であった。また、山崎は今月2日、古関裕而記念館の隣にあるふくしん夢の音楽堂で開催された『福島市古関裕而記念音楽祭2021 永遠に響け、古関メロディー~今こそ歌の力でエールを!~』に出演。「栄冠は君に輝く」「福島行進曲」など多くの楽曲を歌唱した。山崎は古関メロディーの、そして『エール』の素晴らしさを伝え続けている一番の立役者であろう。
また朝ドラにおける“丸メガネ枠”でさらなるブレイクへの足掛かりとなった梅を演じる森七菜、さらに華を演じた古川琴音はこの『エール』から飛躍した朝ドラ女優である。特に古川は『エール』を皮切りに、ドラマ『この恋あたためますか』(TBS系)、『コントが始まる』(日本テレビ系)への出演のほか、映画『花束みたいな恋をした』、『街の上で』、菅田将暉の「虹」のMVで菅田自身と共演するなど、破竹の勢いで女優としてのキャリアを重ねている。先述したアキラとの馴れ初めは華が主役の心温まるパートであり、『コントが始まる』などで古川を知ったという視聴者はこの機会に『エール』の古川の演技を堪能するのもいいだろう。
ラストは最終回のカーテンコールとして「『エール』コンサート」が描かれた異例の朝ドラ『エール』。第1話で謳われた「ずっと音楽は人のそばにある」、そして一つひとつの出会いが人の人生を豊かにしていくという裕一と音が伝えた普遍的なメッセージは、どんな時代においても力強いエールとして視聴者の心に響き続ける。
■放送情報
『エール』総集編
NHK総合にて放送
前編:7月23日(金・祝)23:41〜25:04
後編:7月24日(土)25:06〜26:34 ※金曜深夜
7月31日までNHKプラスで見逃し配信中
※放送時間が変更になる場合あり。
原案:林宏司
脚本:清水友佳子、嶋田うれ葉、吉田照幸
音楽:瀬川英史
語り:津田健次郎
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、松井玲奈、佐久本宝、森七菜、菊池桃子、光石研、仲里依紗、野間口徹、古田新太、野田洋次郎、志村けん、柴咲コウ、風間杜夫、北村有起哉、薬師丸ひろ子、唐沢寿明ほか