4冠達成『ドライブ・マイ・カー』仏メディアの評価は? カンヌ映画祭にみる“時代の流れ”

 3年前に是枝裕和監督の『万引き家族』が、一昨年には後にアカデミー賞作品賞に輝くポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』が最高賞のパルムドールに輝いたこともあり、以前に比べると日本でもカンヌ国際映画祭に対する注目度が増してきたように思える。今年はベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した『偶然と想像』の濱口竜介監督の長編新作となる『ドライブ・マイ・カー』が、脚本賞の他3つの独立賞に輝いたことが大きなトピックとして紹介された。

 この『ドライブ・マイ・カー』は、村上春樹の短編小説を映画化した作品なのだが、上映時間はおよそ3時間にも及ぶ長尺だ。村上短編・長尺・カンヌで好評価となれば、3年前に同じく国際映画批評家連盟賞を受賞したイ・チャンドン監督の『バーニング 劇場版』を彷彿とさせるものがある。海外での村上人気も相まって同作はアカデミー賞の外国語映画賞(現在の国際長編映画賞)の最終選考に上がり、翌年の『パラサイト』で着火する韓国映画の世界的ムーブメントの重要な後押しをしたことを考えると、日本映画もこれを機に何かが始まってくれるのではないかと期待せずにはいられない。

 ちなみに、現地フランスのメディアによる評価を見ると(Le film francais参照。4つ星が満点)、5媒体が満点、5媒体が3つ星で、3媒体が1つ星と、今回のコンペ作品の中でも目を見張るほどの高評価となっている。しかも『寝ても覚めても』と『バーニング 劇場版』の両方に1つ星の低評価をつけていた「Le Figaro」の評者でさえも3つ星を付けているようだ。もっとも批評家からの評価と、映画祭の賞が直結しないのは(いつぞやのアブデラティフ・ケシシュの『アデル、ブルーは熱い色』のような圧倒的ケースを除き)いつものことであるが、それでも脚本賞という公式部門の賞を受賞したことは大きく、“日本映画初”という冠も付くこの栄誉を純粋に讃えたい。

 さて、昨年は新型コロナウイルスの影響を受け、かの五月革命のあった1968年の以来52年ぶりの開催中止となったカンヌ。“第21回=中止”とカウントされているように、昨年の第73回もまた中止の年として映画祭史に記録され、忘れてはならない1年として語り継がれていくことだろう。その昨年にはオフィシャルセレクション作品を「カンヌレーベル」として、他の映画祭へのお墨付きを出す特殊な対応となったわけだが、ウェス・アンダーソン監督の新作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』はあえて今年の開催を待った。必然的に第74回のコンペティションにおける目玉作品として注目が集まり、レッドカーペットにはウェス作品なじみの人気俳優たちが集結。カンヌに華々しさが帰ってきたことを象徴する一本となったのである。

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