『おかえりモネ』夏木マリ演じるサヤカは完璧だった 百音を導いた厳しさと優しさ
『おかえりモネ』(NHK総合)の第9週「雨のち旅立ち」は、主人公である百音(清原果耶)の純粋無垢な無防備さと、彼女を見守る大人たちの寛容で温かい眼差しが印象深く余韻を残し、とくに第45話の構成は最終回のような盛り上がりを見せた。
震災の日、島を離れていた自分は何もできなかったと罪悪感を抱え込み、「とにかく島を離れたい」と言い出した百音を自宅に下宿させたサヤカ(夏木マリ)。森林組合での仕事にも登米の生活にも、サヤカのバックアップのおかげで百音はすぐに慣れることができた。サヤカは百音に「私は山の神様から山を預かっているの」と言っていたが、百音が山の仕事に真面目に取り組んでいる姿を間近で見て、誰よりも期待し、彼女が一緒に暮らしていることを心強く思っていたのもサヤカに違いない。
第29話でサヤカは、医師の菅波(坂口健太郎)と気まずくなった百音に「若いあんたから見っと余裕しゃくしゃくで生きてるように見える立派な大人もね、本当はじたばたもがきながら生きてんの。案外、傷ついてるし、必死なのよ」と伝えたが、百音がサヤカを頼りにしてきたように、サヤカもまた百音を好ましく、その成長を心強く感じていたのだろう。
嵐の夜にお気に入りのパジャマで百音の部屋で過ごすサヤカは若々しく、嬉しそうに百音の話に耳を傾けていた。思い入れのある樹齢三百年のヒバの伐採についても、サヤカは百音が一緒に見届けてくれることに意義を見出し、祈りを捧げるように2人で木挽き鋸の刃を入れた。一人で山を守るように生きてきたサヤカにとって、百音はただ守らなければならない可愛い存在なだけではなく、重要なことを任せたいと思えるほど存在が大きくなってきたことが神聖な場面からも伝わる。
だからこそ、百音がサヤカのことを慮るがゆえとはいえ、咄嗟に気象予報士試験に落ちたと嘘をついたことは、サヤカを落胆させてしまったのだ。
百音が憧れる格好いい大人として、周囲の人たちに「姫」と尊敬の意味をこめて呼ばれるサヤカの時折見せる厳しさも懐の深さも、演じる夏木マリの個性と相まって神託を得た特別な存在に感じられる。能舞台で厳かに舞う姿は美しく、百音への言葉は神様から託されたメッセージのように響いた。
理想的な大人として振る舞い、次世代のためにも森を守る役割を担うサヤカだが、大事に思っている人から嘘をつかれると傷つくし、怪我をしたり、嵐の夜には心細くもなる。そんなサヤカが発する強さと弱さ、神々しさと人間臭さの見せ方が絶妙で、多くの人を惹き付けた。