『おかえりモネ』浅野忠信と永瀬廉が表現する深い悲しみ 最愛の人を失った新次と亮の過去

 1枚の写真。及川新次(浅野忠信)を真ん中にして、亮(永瀬廉)と美波(坂井真紀)が肩を組んでいる。かげりのない笑顔は、これから起こることを知るよしもなかった。

 「あの日」の記憶をたどる『おかえりモネ』(NHK総合)第37話。やはりというか、新次の通院はアルコール依存症の治療だった。「にしても、時間かがったな」。携帯の待ち受けに表示された親子3人の写真を見て新次はつぶやく。同じころ、亮も船倉で写真を見つめていた。

 2010年4月。カメラは連れ立って歩く新次と美波を映し出す。船を新調することになり、その相談で永浦家を訪れていた。「いい船だなぁ」。耕治(内野聖陽)が電卓をたたく横で、新次は横になって図面に目を落とす。最新エンジンをねだる新次を、耕治がたしなめる。「大丈夫。財布のひもは私ががっちり握ってっから」。いかにもしっかり者の美波。島育ちの3人は幼なじみだった。

 亜哉子(鈴木京香)がやって来て、会話に加わる。「親子で乗るんでしょ? 亮君と」「あいつ、高校出たら漁師になるっつってっからな」。夢が広がる光景。家族ぐるみの交流は夜まで続き、龍己(藤竜也)や雅代(竹下景子)も交えて宴会になる。何度も繰り返した思い出話がこの日も語られ、即席カラオケ大会では、美波が十八番の「かもめはかもめ」を歌い出す。

〈あきらめました あなたのことは/もう 電話も かけない〉

〈青空を 渡るよりも/見たい夢は あるけれど/かもめはかもめ ひとりで空を/ゆくのがお似合い〉

 “往生際の悪かった”新次の帰りを待って夫婦になった美波。「もうね、意地よ! 意地!」「しょうがねえだろ。遠洋で海出たら、俺、半年は帰れねえんだから」。海の男を伴侶に選んだ妻は待ち続ける運命にあって、その心理にはどこか諦めも混じっている。「かもめはかもめ」は、新次を待つ美波の思いを代弁していた。そして進水式の日。新しい船出を迎えた家族を、空も海も祝福しているように見えた。

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