“ちょっとブラックな”ネタがキモ テレビの洋画劇場らしさを味わえる『ピーターラビット』

『ピーターラビット』のテレビ洋画劇場らしさ

 6月25日放送の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、ウサギと人間のバイオレンス・コメディ『ピーターラビット』(2018年)である。比較的最近の作品だが、本作はどこか懐かしい雰囲気を持ち合わせている。ぼんやりとした表現で恐縮だが、『星の王子 ニューヨークへ行く』(1988年)や『アダムス・ファミリー』(1991年)あるいは『永遠に美しく…』(1992年)といった、「テレビの洋画劇場らしさ」があるのだ。では、その「テレビの洋画劇場らしさ」とは何か? 今回は同作の紹介をしつつ、この漠然とした「テレビの洋画劇場らしさ」の正体について考えていきたい。

 イギリスの田舎に住む野ウサギのピーターは、近所に住む人間マグレガーに一家の縄張りを奪われて畑にされ、しかも父親をミートパイにされて食われた悲しい過去があった。マグレガーは、かつて父が縄張りとしていた土地に家を建て、庭を整備し、野生動物たちを閉め出している。怒りを覚えたピーターは、妹や親戚と結託して、日々マグレガー宅の畑から野菜をかっぱらう嫌がらせ&サバイバル行為を繰り返していた。しかし、そんなマグレガーが突如として心臓麻痺で死んでしまう。やっと父の仇を討てたと喜ぶピーター。彼はマグレガー宅に野生動物たちを招き入れ、ドンチャン騒ぎを起こす。一方その頃、ロンドンに住むマグレガーの親戚、トーマス(ドーナル・グリーソン)は、勤め先の出世レースに負けて落ち込んでいた。実務能力ではなく、上層部との血縁関係での敗北だった。明らかに自分より仕事のできな人物に上役の座を奪われたのである。「ここはイギリス。階級社会なの」。上司の身も蓋もない台詞で気分はドン底。そんな彼のもとに、マグレガー宅の権利が送られてくる。「さっと売って、独立の資金稼ぎにしようかなぁ」そんなテンションでマグレガー宅にやってきたトーマスだったが、近所に住む画家にして、ピーターの良き理解者であるビア(ローズ・バーン)と恋に落ちてしまう。ピーターは激怒した。せっかく取り返した亡き父の縄張りも、亡き母の面影を見ていたビアも、トーマスが持って行ったのである。かくしてブチギレたピーターはトーマスを潰しにかかるが、トーマスも全力でこれに応戦。人間対ウサギの抗争は激化の一途を辿り、のどかなイギリスの田舎に血と硝煙の匂いが……。

 ……と、ザックリあらすじを書いてみても分かるように、本作では全編に渡ってトーマスとピーターがバトルを繰り広げるわけだが、これが本気で命の獲り合いになっている。劇場公開当時もウサギ側の狂暴な性質が映画ファンの間で話題になった。ドタバタ具合とバイオレンスな感じは、両津さんが勤務中に煙草を吸いながら競馬をやって、民間人に発砲していた頃の『こちら葛飾区亀有公園前派出所』、擬人化したかわいい動物が登場するわりに、それを普通に人間が殺すシビアな関係は、『じゃりン子チエ』を思い出す。このように本作は基本はドタバタコメディだが、全編を通してちょっとブラックなネタが多めになっている。この「ちょっとブラックな」がキモだ。これこそ「テレビの洋画劇場らしさ」である。つまりは、大人の世界が分かり始めている子どもが喜ぶタイプの笑いなのだ。

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