浅野忠信×内野聖陽、『おかえりモネ』で放つ存在感 これまでと異なる朝ドラの父親に

 第18話で耕治は、街に出かけた際に新次と亮の姿を偶然見かけた。昼間から飲んでいた新次を息子の亮が介抱していたのだが、それまでの穏やかな世界観が一変するほど不穏な空気が流れていた。その後、幼なじみで昔からの知り合いである耕治と新次は、2人で居酒屋のカウンターに並び、酒を飲む。SNSでも話題になるほど朝ドラの雰囲気とは異なる印象に残るシーンとなった。

 耕治が持っていたトランペットのケースを見て、新次はまだ吹いているのかと聞いた。メンテナンスだけでもう吹くことはないと答えると「もったいねぇなぁ」と新次は言う。耕治が「及川新次が乗って魚群に当たらない日は一日もねぇって言われてたんだからさ」「もったいねぇのはおめえだよ」「漁労長のクチなら今だって山ほどあんだろ」と、漁師の才能を生かすように話を持っていこうとすると、「今さらよそんちの船なんか乗れっかよ」と、新次はそれ以上話を続けようとしなかった。

 帰ろうとする新次に「外、雨強くなってんじゃないか?」と自分が持っていた折りたたみ傘を耕治が差し出すと、不敵な笑みを浮かべ「準備がいいな、おめえは。昔からそつがねぇっつうかよ。俺の船ん時もそうだよ。おめえの判断が正しかったよな。でもよ、焚きつけたのはおめえだろ。金で首が絞まるって分かってても、なんとかすんのが銀行員でねえの。なんつうのは甘えかね」と、自分の船が持てないことへのこだわりを見せる。

 その日の夜、家に帰った耕治は未知にも同じように銀行員として新次が船を買うための融資ができなかったことを責められる。「返済が正義だもんね! そうやって、りょーちんのお父さんにも船、諦めさせたもんね! りょーちんのうち、あんなに大変だったのに」という未知の言葉を耕治はただ受け止める。母親である亜哉子(鈴木京香)が未知の激しい口調をたしなめ、新次の様子を気にかけてはいるが、それ以上踏み込むことはない。

 百音が生まれるとき、妊婦だった亜哉子(鈴木京香)は島から出産施設のある本土の病院に向かわなければならず、激しい嵐の中で船を出してくれたのが新次で、永浦家にとって大切な恩人でもある。そのシーンは現役の漁師の方の船を使い、実際に漁師の方の指導があったとはいえ、海の男の顔そのものといった風情。浅野忠信の役者としての存在感がドラマにも大きく影響している。

 第19話では、朝の5時から酔って騒いでいた新次のところに亮が駆けつけると、「こいつね、春から一進丸さ乗ってんですよ。菊田っつう、俺の次ぐらいに腕のいい船頭に面倒見てもらってよ。メカやマグロやら釣ってんだよ。なぁ、いい顔になったでしょう。これが漁師の顔だ。な?」と警察官にまで息子自慢をするのだが、亮は同級生たちにも「顔つきが変わった」と言われていた。漁師見習いとして船に乗って仕事をしているだけでなく、父親のことを心配する側になって大人にならざるを得ないのだ。

 百音は将来の選択肢に迷い、葛藤するが、亮には選択肢がなく、重い十字架を背負っているようにも見える。自分のことより周囲を気遣い、酒に溺れる父の面倒を見る亮にはどんな未来が待ち受けているのか。近年の朝ドラ的ヒロインの役目を引き受けるような切ない表情を見せる亮と、深く大きな悲しみを抱える新次との関係にも注目していきたい。

■池沢奈々見
恋愛ライター。コラムニスト。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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