『スタンド・バイ・ミー』が描く“二度と戻らない夏” まとわりつく死の影と街の秘密

少年たちの住む街、キャッスルロックの秘密

 ところで、なぜこんなにも瑞々しい少年たちの夏の日々を「死」が取り巻くのか。それには、彼らの住んでいる“街”が関係している。キングが『スタンド・バイ・ミー』の原作を手がけた4年後、自分の書く子供が主人公の物語の集大成として世に出したのが、あの『IT/イット』だ。それまで書いた彼の全てを抽出した『IT/イット』が“ホラー版スタンド・バイ・ミー”と称されるのも、そういうこと。『IT/イット』ではデリーという街を舞台に、殺人ピエロのペニーワイズに脅かされ、立ち向かう大人、そして彼らの少年少女時代が描かれた。

『IT/イットTHE END “それ”が見えたら、終わり。』(c)2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 作品の中で、デリーに住む大人や不良青年たちが邪悪な何かに支配されていることがわかる描写があるのだが、それは諸悪の根源であるペニーワイズに、デリーという街そのものが毒されていたことを意味する。そして、キングの作品にはデリー以外にもいくつかそういった“ヤバい街”が登場するのだ。その一つが、紛れもない少年たちのホームタウンである「キャッスルロック」である。

 『スタンド・バイ・ミー』で描かれた少年たちの死体探しは1959年の夏に起きたこと。しかしその16年後、4人が28歳になった1975年に街では連続暴行殺人事件が発生し、“子供”までもが犠牲になっていた。そこで、街の保安官がとある男に犯人逮捕の協力をする。デヴィッド・クローネンバーグ監督によって映像化もされた『デッド・ゾーン』の主人公、ジョン・スミスである。映画ではクリストファー・ウォーケンが演じるジョンは、事故の後遺症で手に触れたものの過去や現在、未来を透視する超能力を持っていた。そして見つけ出され、追い詰められた連続殺人の犯人、フランク・ドットは自殺をする。それからと言うもの、彼はこの街を震え上がらせた伝説の殺人鬼として子供たちに恐れられる。そしてフランク・ドットが自害してから5年後の1980年、彼はトレントン家の幼い息子タッドのクローゼットに住むお化けとして登場する。タッドとは、『クージョ』で大型のセントバーナード犬に襲われる少年である。

 狂犬病に犯された犬が幼児とその母親を襲った事件から数年後、『ダーク・ハーフ』という作品にもキャッスルロックの人間が登場する。『ダーク・ハーフ』の舞台はラドロウという、キャッスルロックの近郊に位置する街だ。何を隠そう、ラドロウは『ペット・セマタリー』の舞台である。つまり、呪われたインディアンのお墓がある場所だ。その周辺で起きた事件を追うのが、キャッスルロックの保安官アラン・パングボーン。彼はのちに、『ニードフル・シングス』という作品の(エド・ハリスが演じる)主人公として登場する。作品の中で具体的な年代は示されていなかったと思うが、本作が出版された1991年頃、舞台であるキャッスルロックの街は未だかつてない最大の危機を迎え、最終的に大破壊を遂げてその歴史に幕を閉じる。とはいえ、『ニードフル・シングス』のエピローグにもあたる、後のキングの短編小説『丘の上の屋敷(It Grows on You)』にも登場する。

 おわかりいただけただろうか……。上記(短編以外映像化されている)全スティーヴン・キング作品に登場するキャッスルロックという街は特に50年代から80年代、子供が危ない目に遭っているし、絶えず邪悪な出来事が“そこに引き寄せられる”かのように起きている。デリーの街みたいに。その真相は誰にもわからないが、2017年より製作されたJ・J・エイブラムス製作のHuluドラマ『キャッスルロック』では街全体がフォーカスされ、シーズン2には『ミザリー』の若きアニーが娘とともに引っ越してきて、看護婦をしている。この街に来たから、そうなってしまったのか。元からそうだったから、この街にきたのか。いずれにせよ、キャッスルロックがヤバいというには十分な説明だろう。

 この街がその後、紆余曲折をして崩壊するなんて1959年の夏、ゴーディたちは知らない。ヒルがいることさえ露ほども考えなかった彼らが、川の中でふざけるシーンでクリスに「Act your age(年相応にしっかりしろ!)」と叱れたテディはこう言う。

 「This is my age. I’m in the prime of my youth, and I’ll only be young once(それなら僕は子供さ 子供時代は二度と来ない)」

 そう、子供時代は二度と来ないし、その時にできたような友達は二度とできない。その悲しくも美しい事実を描ききった『スタンド・バイ・ミー』。本作を監督したロブ・ライナーも、1959年はゴーディたちと同じ12歳だった。そんな彼が劇中の楽曲を全て選んだわけだが、とりわけ自分が気に入っていたベン・E・キングの「Stand By Me」を主題歌および映画のタイトルにした。もともと黒人霊歌である「Lord, Stand By Me」にインスパイアされて生まれたこの楽曲は、その歌詞が作品に寄り添い、いつしか私たちの耳の中で、二度と戻らない子供時代の記憶として反芻するようになった。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。雑誌『ケトル』の「スティーヴン・キング特集」にコントリビューティングエディターズとして企画、執筆を担当。InstagramTwitter

■放送情報
『スタンド・バイ・ミー』
日本テレビ系にて、5月28日(金)21:30~23:24
監督:ロブ・ライナー
原作:スティーヴン・キング
主題歌:ベン・E・キング「スタンド・バイ・ミー」
出演:ウィル・ウィートン、リバー・フェニックス、コリー・フェルドマン、ジェリー・オコネル、キーファー・サザーランド、リチャード・ドレイファス
(c)1986 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

関連記事