全方位にエンタメ極める韓国ドラマ『ヴィンチェンツォ』 その革新性と世界的大ヒットの理由を考察
今作は製作費200億ウォン(約20億円)をかけたtvNの期待作なので韓国での人気は当然の結果だろうが、Netflixを通じ世界に配信されている韓国ドラマの中でも出色の人気を誇っている。同時配信は英語圏といくつかの言語圏に限られる中、16話以降の配信日には世界ランキングで4位を記録。2021年のNetflixシリーズ世界ランキングでも13位につけている。昨年のランキングにおける韓国ドラマ最高位は『サイコでも大丈夫』の19位だったことを考えると、大きな飛躍だ(参考:https://flixpatrol.com/title/vincenzo/top10/)。
ちなみに、ソン・ジュンギが主演した『スペース・スウィーパーズ』は配信開始から5日間世界ランキングの1位に輝き、映画年間ランキングでも19位(参考:https://flixpatrol.com/title/space-sweepers/top10/)。
ランキング上位国の中でも、中東全域とナイジェリア、エジプトといったアフリカ、パナマ、パラグアイ、ペルーといった中南米で強い。今週末に全エピソードの配信が始まると、アメリカでもランキングに入り始めた。「ソン・ジュンギの知名度を考えれば、この人気は必然。Netflixなどのメディアが状況に追いついただけ」と言うのは、Clubhouseで11500人超のフォロワーを持つ「K-Dramatics Club」を主催する、ガエレ、ドリス、シルビアの3人だ。
ガーナ出身のドリスは、「アフリカの数カ国では日常的にボリウッド映画や韓国ドラマが地上波で放送されていて、私も子供の頃から観ていた。その頃から、知人や友人と集まって観るウォッチパーティや、法律や医療に詳しい専門家がドラマの内容を解説してくれるフォーラムのようなものもあった。テクノロジーが発達し、ClubhouseやTwitterを介して世界中の人々と即時共有できるようになっただけだと思う」と説明する。ハイチ出身で今はアメリカ在住のガエレは、「Netflixは海外作品に免疫がない視聴者に扉を開いた。アルゴリズムを使い、製作国や言語属性ではなく、ジャンルやテーマに沿ったレコメンデーションを提示する。それが功を奏し新しいファンを増やし続けている」と話す。韓国系アメリカ人のシルビアは、「字幕をつけただけの状態で配信していることが重要。海外の素晴らしい作品をわざわざ英語でリメイクする文化は過去のものになった。俳優たちの演技とテーマと文化、それらが映画やドラマの素晴らしさを作っているのであって、異国の文化をアメリカナイズして消費することはできない」と補足する。世界中の韓国ドラマファンとつながっている彼らからすると、Flixpatrolのランキング上昇も『ヴィンチェンツォ』特有の現象ではなく、世界中の人々が何らかの形で韓国映画やドラマに触れる機会が増え、外国語作品を観る準備ができてきた証拠だと分析する。
長年韓国ドラマを観てきた彼らの分析が正しいとすると、今後ますます韓国ドラマは世界市場で勢いを増していくだろう。ポン・ジュノが昨年のゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞した際のスピーチ「字幕という1インチの壁を乗り越えれば、もっと多くの素晴らしい映画に出会える」、そしてアカデミー賞監督賞受賞で述べた「最もパーソナルなものは最もクリエイティブ」というマーティン・スコセッシ監督語録からの引用は、迎合することなく独自のミックス・ジャンルを追求し、ローカルだが確かな演技力をもつ俳優を多数起用した『ヴィンチェンツォ』の世界的ヒットにも当てはまる。ミックスジャンルドラマの新機軸を築いた『ヴィンチェンツォ』を経てますます躍進していく韓国ドラマ界から、しばらく目が離せそうにない。
■平井伊都子
ロサンゼルス在住映画ライター。在ロサンゼルス総領事館にて3年間の任期付外交官を経て、映画業界に復帰。
■配信情報
Netflixオリジナルシリーズ『ヴィンチェンツォ』
Netflixにて独占配信中