『大豆田とわ子と三人の元夫』はなぜ“女社長”が主人公? 市川実日子の台詞から紐解く
一方、『最高の離婚』と同じくらい連想してしまうのが坂元裕二脚本の映画『花束みたいな恋をした』(以下『はな恋』)だ。
タイトルにもある花束が、第3話で登場した時にも『はな恋』を連想したが、とわ子の親友・綿来かごめが(市川実日子)が、じゃんけんの話をする場面でも『はな恋』のことを思い出した。
『はな恋』には、山音麦(菅田将暉)が「じゃんけんのルールが理解できない」と言う場面がある。そこでのやりとりは、パー(紙)がグー(石)に勝つことが理解できないというもので、最後に麦がじゃんけんをする際にパーを出す場面を見せることで、彼の変化(あるいは成長)を描いていた。
この第4話はかごめの物語でもあり、序盤は風変わりな性格や行動が面白おかしく描写されるのだが、実は彼女が複雑な家庭環境で育てられてきたことが明らかになる。
あるあるネタと言葉遊びが続く坂元裕二の脚本は情報量が多い。だから最初は、何を見せたいのかわからず困惑するのだが、その無意味なやりとりこそが重要なのだと、だんだんわかってくる。
家のことを知ったとわ子に対し「そのことで私をみてほしくないんだよね」「そこをもって私を語られるのが嫌なんだよね」「私はそれを超えるアイデンティティを作ってきたはずだし、あるから」とかごめは答える。
幼少期に両親をなくして、親戚の家で育てられたことは彼女にとって現実だ。しかしそんなつまらない現実を、塗りつぶしたかったのだ。
その後、かごめはとわ子と一度目指して挫折した漫画家への夢にもう一度挑戦するという。またいっしょに漫画を描きたいと言うとわ子。しかし、かごめはその申し出を断り「じゃんけんで一番弱いのはじゃんけんのルールがわからない人」と言う。
ここで言うじゃんけんとは「社会では当たり前にされているルール」のことだ。かごめは仕事で何度もクビになったことを話して、他の人が当たり前にできていることができないと語る。それは恋愛に関しても同様で、自分にとって恋愛感情は邪魔なものだと語る。
その後、早良と八作の会話から、八作が好な人がかごめだと暗示させたところで、物語は次回へ続く。
複数の三角関係(しかも一人は恋愛自体を邪魔だと思っている)が混在している状況を見ていると、いよいよ恋愛ドラマとして面白くなってきたと思う『まめ夫』だが、個人的にとても感動したのは、かごめが、とわ子が社長を「できてる」と褒めた後に言う以下の台詞だ。
「それは凄いことだよ。あなたみたいな人がいるってだけでね。あっ私も社長になれるって、小さい女の子がイメージできるんだよ」
なぜ、本作は「女社長」という視聴者からみると遠い存在に思える人間を主人公にしたのだろう? と、ずっと疑問に思っていたのだが、この台詞を聞いて納得すると同時に、作り手の使命感のようなものを感じた。
本作を観た視聴者(もちろん小さい女の子も含まれる)は、今後、とわ子のように、女が社長になることを当たり前だと感じるようになるはずだ。そういう力が『まめ夫』にはある。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■放送情報
『大豆田とわ子と三人の元夫』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送
出演:松たか子、岡田将生、角田晃広(東京03)、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン、弓削智久、平埜生成、穂志もえか、楽駆、豊嶋花、石橋静河、石橋菜津美、瀧内公美、近藤芳正、岩松了ほか
脚本:坂元裕二
演出:中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美
音楽:坂東祐大
制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/mameo/
公式Twitter:@omamedatowako