2021年の現在を描くポップカルチャーの最前線 海外ドラマ“ビンジウォッチのすすめ”
新型コロナウイルスの影響により、例年より2カ月遅れて開催されたアカデミー賞も無事終了。本来ならこのゴールデンウィークは受賞作『ノマドランド』や『ミナリ』に注目が集まるオスカー興行のタイミングだった。しかし、東京をはじめとする都市圏で3度目の緊急事態宣言が発令され、映画館は再び休業要請を強いられている。
映画ファンにとって1~6月の上半期は全米賞レースを賑わせた注目作が相次いで公開される“繁忙期”だが、振り返ってみれば今年は本当に数が少ない。何より昨年から公開延期が相次いでいるハリウッド大作が依然として予定を見合わせており、僕たちは2021年の最新作を未だほとんど観れていないのである。
2年前の2019年上半期を覚えているだろうか? 5月を前にしてポップカルチャーは最高潮の盛り上がりだった。TVでは『ゲーム・オブ・スローンズ』最終シーズンがオンエアされ、そして劇場ではマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)10年間の集大成『アベンジャーズ/エンドゲーム』が世界的な大ヒットを記録していた。その後、フェーズ3を締め括る『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』が公開され、僕らはそこから2年もマーベル新作を観ていない。本来なら2020年に公開されるハズだった『ブラック・ウィドウ』はコロナショックによって延期を繰り返し、現在7月9日というスケジュールをフィックスして公開を待つ状況だ。
そんな中、今年3月にディズニーの配信プラットフォーム“ディズニープラス”でついにMCUのTVシリーズがスタートした。これまでシリーズを追い続けてきた筆者も「TV向けのスピンオフだろうし、ここまで手が回らないよなぁ」とタカをくくっていたのだが、いざ蓋を開けてみればフェーズ4ど真ん中どころか、2021年の現在を描くポップカルチャーの最前線だった。自宅に引きこもらざるを得ないこの時期、ぜひ追いついてもらいたい“ビンジウォッチのすすめ”である。
『ワンダヴィジョン』
『ワンダヴィジョン』はまずそのトリッキーな語り口に驚かされた。舞台は1950年代アメリカの郊外住宅地。そこにワンダ(エリザベス・オルセン)とヴィジョン(ポール・ベタニー)のおしどり夫婦がやってきて…と『奥様は魔女』風のシットコム『ワンダヴィジョン』として始まるのだ。スーパーヒーローという正体を隠した2人が巻き起こす騒動は微笑ましく、主演エリザベス・オルセンとポール・ベタニーもこれまでになく実に楽し気。ところが、この『ワンダヴィジョン』を観ている誰かがいて……。
おっと、ここまで。思いがけぬ人物から始まる第4話で物語は全く異なる様相へと変貌し、「TVドラマとは何か?」という問いかけが浮かび上がっていく。なぜMCUはTVシリーズというナラティヴを選んだのか? なぜ僕たちはTVドラマを観るのか? 1話約30分で全9話。まずは前半4話を一気見、食事休憩を挟んで5~7話、ブレイクを入れて残りの2話というペースがオススメ。特に海外ドラマは最終回直前のエピソードが最も力の入った傑作回となることが多く、『ワンダヴィジョン』もその例に漏れない。
『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』
続く『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は予告編の雰囲気から痛快バディアクションかと思われたが、こちらも予想を上回る複雑な作品だった。『エンドゲーム』でキャプテン・アメリカから盾を受け継いだファルコンことサム・ウィルソン(アンソニー・マッキー)。しかし彼は2代目キャプテン・アメリカを襲名することなく、盾を政府に返還してしまっていた。いったいなぜか? 『キャプテン・アメリカ/ファースト・アベンジャー』を思い返してもらい。キャプテン・アメリカとは第2次大戦期、国威発揚を目的として創られた白人によるアイコンだ。果たしてそれをアフリカ系アメリカ人のサムが継承することは正しいのか? 『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は、MCU史上初めてBlack Lives Matterに正面からアンサーした重要作でもある。
こちらは1話約50分で全6話。マーベルらしくギャグもアクションも盛り沢山だが、昨今のTVドラマ同様、腰の据わったストーリーテリングは1日1話のペースでじっくり観てもらいたい。連休が短ければ、1日2話ずつくらいがオススメだ。
とはいえ、世界最高のエンターテイメントMCUの新作である。一度、火が付いたら最後までやめられずにビンジしてしまうのは間違いないだろう。隙間が出来たらひと味違うコメディドラマで気分転換はどうだろうか。