第93回アカデミー賞が最低視聴率を更新 その背景と課題について考える

 第93回アカデミー賞はパンデミックの中で開催されたこともあり、普段のものとは違う多くの印象を残した。しかし、米調査会社ニールセンの発表によると、授賞式の平均視聴者数はわずか985万人のみで、18歳から49歳はそのうち1.9%しかいなかったという悲惨な結果に。ハリウッドにとって、史上最低の数字だ。

 昨年の2月9日に開催された第92回アカデミー賞授賞式でさえ過去最低記録(視聴者数2360万人)だったのに、そこから視聴者数が約58%も減少している。また、昨年の30秒CMの広告料が280万ドルだったのに対し、今年は200万ドルに値下げしている。ABCテレビが近年このアカデミー賞の低迷具合に頭を悩ませているのは確かだ。

 とはいえ、問題を抱えているのはアカデミー賞だけではない。ゴールデングローブ賞やカントリーミュージック協会、アメリカン・ミュージック・アワードなど同シーズンの多くの授賞式が視聴率を落としている傾向にある。その中で、最もマシだったと言われる音楽界のオスカー、グラミー賞(米CBS)でさえ平均視聴者数923万人で、18~49歳の層の視聴率は2.28%という史上最低の結果を叩き出した。

 この背景にはやはり、ストリーミングサービスの普及と番組へのアクセスの悪さが関わっているのではないだろうか。今年のアカデミー賞の視聴者数985万人という数字に対し、Netflixの新規会員は2020年中に3700万人増加し、今や登録者数が世界中で2億400万人以上いる。一方、アカデミー賞はABCのテレビ中継以外にもウェブでライブ配信を行っているが、特定の都市のみであり、パートナシップのある有料TVプロバイダーに登録した後にのみ配信される仕組みになっている。もしくはアメリカの特定大都市でABCを含むローカル放送局を無料でストリーミングするLocastというサービスを利用する必要がある。また、ABCの放送地域に住んでいる人ならAT&T TV、Hulu Live TV 、またはYouTube TVなどの有料ストリーミングサービスでも観られるらしい。

 しかし、上記は全てアメリカの特定都市に住んでいることが前提であり、日本ではWOWOWであるように、各国で国ごとの有料チャンネルに加入しなければいけない。だからYouTubeではアカデミー賞放送中、常にライブ配信を装ったクリックベイト動画が多数登場し、アクセスを集めているのだ。今、人はオンラインで観る形を模索している。そしてそもそも、多くの手続きを踏んでまで観たいかというと、その答えはノーなのだろう。実際、Netflixの加入者数と2020年のパンデミック以降のアメリカの映画館の状況を振り返ると、明らかに人々は今“Netflixで、Netflixの映画を観ている”。特に、若年層は。アカデミー賞の18〜49歳の視聴率が全体の1.9%しかいなかったという結果がこれを物語っているように思える。

(c)ABC / AMPAS

 アカデミー賞は配信映画に対して懐疑的であり、窓口を開けたがらない。とはいえ、2021年の第93回アカデミー賞ではNetflixオリジナル作品が7部門受賞という結果が出ている。今年はなおさら、ワーナー・ブラザースとディズニーが劇場公開と同時にそれぞれの契約ストリーミングサービスで独占配信する動きを見せているため、アカデミー賞はもうこれ以上配信に対して否定的な目を持ち続けることは苦しいだろう。変な話、Netflixでアカデミー賞が観られるようになったら話は別だ。それでも、アクセス環境を整えたとして未だに番組自体の問題が残る。演出の退屈さだ。

 第93回アカデミー賞は、とくにその点でも多くの否定的な意見を受けている。例年通りノミネート者を映像クリップではなく、プレゼンターが口頭で紹介したり、賞の発表の合間の箸休めとなる(そして花形でもある)ライブパフォーマンスがなかったり。再びハリウッドに活気を取り戻す、というコンセプトでスティーヴン・ソダーバーグとジェシー・コリンズ、ステイシー・シェアがプロデュースした今回のオスカーに果たして“活気”はあったのだろうか。もちろん、コロナ禍ということもあるが、その中でも工夫して魅せていかなければいけない。製作側は来年に向けて、多くの課題を抱えている。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。InstagramTwitter

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