中村倫也、芳根京子らは“マクベスの影のメンバー”? 『コントが始まる』広がる物語の世界観

 売れてないお笑いトリオは不幸なのか。不幸なのだとすれば、人生は残酷だ。

 自殺を考えていた瞬太(神木隆之介)が屋上で春斗(菅田将暉)に出会ってさえいなければ、潤平(仲野太賀)が奈津美(芳根京子)を振り向かせたいがために「コントがしたい」と言い出しさえしなければ、春斗に声をかける前に潤平が誘っていた2人のうちのどちらかが応じてさえいれば。文化祭の後、ぷよぷよで優勝した瞬太が「ポンペイ」に春斗と潤平のふたりを連れていかなければ、そしてそこで、春斗が潤平をお笑いの世界に誘ってさえいなければ。どうなっていただろう。「マクベス」が生まれていなければ、3人は10年間の売れない苦悩を味わうこともなく、別の仕事や人生に生きがいを見つけていただろうか。

 『コントが始まる』(日本テレビ系)第2話の物語の起点となるのは、春斗の怒りだ。潤平が春斗を文化祭のコントに誘う前に、実は別の生徒ふたりに声をかけていたこと、そのことを今まで秘密にし続けていたことに対する怒り。それはまた、「今」置かれている状況に対する“必然性のなさ”への憤りなのかもしれない。たとえ売れなくても、お互いの志が一致していれば不幸ではないはずだ。しかし、潤平が春斗以外に声をかけていたとすれば話は変わってくる。もしかしたら自分だけが盛り上がっていたのではないか。所詮3番目の自分がしゃしゃり出てさえいなければ。そんな春斗の優しさや反省すらも垣間見える、怒り。菅田と仲野がぶつかり合う場面の演技の厚みにはどうしたって興奮せざるを得ないが、その背景に個々の想いが滲んでくるからこそ、より重層的なドラマになっているのだろう。

 本作の素晴らしさは、この“重層的である”という点に尽きる。月並みなドラマであれば、キャラクターのうちの誰かひとりにフォーカスするだけで、1話50分ほどの時間はすぐに流れ過ぎてしまう。第2話でいうと、潤平に焦点を当てて、彼の告白と人生の選択の物語にだけ終始するはずだ。しかし、本作ではそこに瞬太の「27歳自死願望」の話が絡んでくるし、春斗が積み重ねてきた後悔とやるせなさも露わになる。おまけに里穂子(有村架純)のオタク気質までどんどん浮き彫りになって、コメディ演出にも余念がない。

 世界はそれほどに多層であるから、1話50分を経ても、各々の想いがすべて共有されるわけではないだろう。瞬太が本当に自殺を考えていなかったのか、潤平が3人目に春斗を誘ったことを後悔していないか、本当の気持ちは最後までわからない。しかし、彼らには「コント」がある。マクベスにとっての「コント」とは、きっと「人生の交わりの地点」である。コント『屋上』のなかで青年は自殺を踏みとどまるし、「アキレス腱を伸ばす」という運動の後にある「告白」――「あなたを選んでよかった」は奈津美から潤平にかけられる言葉でもあった――を繰り返す。それはまぎれもない事実で、彼らの人生は可笑しくて美しい。

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