坂口健太郎の“肉を切らせて骨を断つ”の精神 『劇場版シグナル』で出された“答え”
さらに『劇場版シグナル』では、健人と大山のバディ感は一層強調して描かれる。その根底にあるのは、これまでの信頼関係から築かれてきた“価値観”の一致。健人と大山が自ら信じた“正義”を共に貫くことで、強固になった二人の絆はスクリーンで一挙に花開く。
これは自分たちの“正義”と向き合い、対峙し、時に苦しみながら前に進む二人の物語なのである。パズルのピースをはめるように事件が解決していく緻密なストーリーの根底にあるヒューマンドラマの部分を厚くすることで、健人のキャラクターも一段と深いものになっただろう。
主役の坂口は、今回の映画における三枝健人像を見事に深掘りしていた。これまでパワーではなく頭脳で事件を紐解いてきた健人は、大山の燃えるような熱い正義とは対照的にどこかクールな印象を漂わせていた。だが、大山と二人三脚で捜査をするうちに、いつしか健人にも熱い想いが宿ることになる。
はじめこそ兄の関わった事件に対する復讐心で警察官になった健人だが、当時の面影はもう感じられず、自らの正義の証として戦う熱い心意気が伝わってくる。息子が父親の背中を見ながら人生を歩むがごとく、大山の生き様を無線から感じてきた健人の成長の軌跡がここにある。二人のバディが掲げる未来への希望は、一度も顔を合わせたことがないにも関わらず、何年にも渡って交流を続けてきた事実があるからこそ信じられる淡い光なのだ。悲しい過去を持つクールな青年は、いつしか自らの足で立ち上がり、復讐を捨て、正義のために生きることになる。
大きく成長した健人は自ら肉弾戦に飛び込み成果をあげるなど、新しい一面も披露した。坂口にとっては今回の映画が初の本格アクションシーンとなるが、まさに肉を切らせて骨を断つといった凄まじいアクションは息を飲むほどの見せ場となっているだろう。また、坂口は、健人の成長の過程を丁寧に演じることで、我々が目にしていない時代の健人のことさえ体験していたかのように、その心中の変化や繊細な動きを表現した。これが、坂口が何年にも渡り健人というキャラクターと向き合ってきた答えなのだろう。
『劇場版シグナル』は映画ならではの派手さとスケールの大きさを併せ持った華やかな作品となる一方で、キャラクターの背景を丁寧に深掘りすることで熱く心揺さぶられる物語に仕上がっている。『シグナル』シリーズにとってもひとつの集大成となる『劇場版シグナル』で出された「答え」を、是非とも見届けてほしい。
■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter
■公開情報
『劇場版 シグナル 長期未解決事件捜査班』
全国公開中
出演:坂口健太郎、北村一輝、吉瀬美智子、木村祐一、池田鉄洋、青野楓、杉本哲太、奈緒、田中哲司、鹿賀丈史、伊原剛志ほか
原案:『シグナル』(脚本:キム・ウニ/制作:Studio Dragon &ASTORY)
監督:橋本一
脚本:仁志光佑、林弘
主題歌:BTS「Film out」(楽曲提供・プロデュース:back number)
音楽:林ゆうき、橘麻美
配給:東宝
制作プロダクション:トライストーン・ピクチャーズ
製作:2021映画「劇場版 シグナル 長期未解決事件捜査班」製作委員会
(c)2021映画「劇場版 シグナル 長期未解決事件捜査班」製作委員会
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