小川紗良×橋本絵莉子、作り手として大切にしてきたもの 「やっぱり、楽しむしかない」

小さくてもちゃんと伝わる

――なるほど。ここからは、映画の内容についてもお聞きしたいのですが……小川さんは、初の長編監督作で、なぜ児童養護施設を舞台とした映画を撮ろうと思ったのですか?

小川:これまでも短編作品はいくつか作ってきていたんですけど、長編映画を作る機会があったら、ひとりの女の子が自分の人生を歩み出す瞬間を描きたいなってずっと思っていたんです。この映画の主人公「花」の場合は、18歳になって施設を出なければいけないタイミングになるんですけど。そうやって自分の人生を歩み出さなければいけないときって、自分の過去とか血縁とか、そういうものと深く向き合うタイミングでもあるのかなって思っていて。そこに、それまで自分が観てきたいろいろなドキュメンタリーだったり映画だったり……こういう身寄りのない子供たちを描いたものは、以前から関心や個人的な思い入れがあって結構観ていて。そういうものがいろいろ重なって、この作品になっていったという感じです。

――ちなみに、橋本さんはこの映画を観て、どんな感想を持ちましたか?

橋本:泣きながら観ました。この映画を最初に観たとき、息子が5歳くらいだったんですけど、同じぐらいの歳の子が映画の中にいっぱい出てきて。いろんなことを考えてしまったんですよね。そう、これだけ小さな子がたくさんいたら、撮影現場は結構大変だったんじゃないですか?

小川:とっても大変でした(笑)。撮影の初日から、思った通りにはいかなくて。ちょっと目を離すと、子供たちがケンカし始めたりとか、帰りたいって泣き出す子がいたり、いつのまにかどこかに行ってしまう子もいて。でも、予定調和ではないというか、自分が脚本を書きながら思い描いたことだけじゃなくて、子供たちが常に予想外なことをしてくれているので、それが逆に良かったんですよね。そうやって目の前で起きていることを、しっかり見つめて撮っていくやり方が、この映画をすごく広げてくれたと思っています。

――ちょっとドキュメンタリーっぽいところもある映画になっていますよね。

小川:今回撮影をお願いした山崎裕さんは、劇映画のみならずドキュメンタリーもたくさん撮ってきた方ですし、子供たちを撮ることにも慣れている方なんですよね。だから、そういう臨機応変な撮り方ができたのはすごく良かったと思うし、現場もとても楽しかったです。まあ、大変は大変でしたけど(笑)。

――(笑)。そうやって撮影していく中で、小川さん自身、改めて気づいたこともあったんじゃないですか?

小川:そうですね。今回の映画で準主役の「晴海」役をやってくれた花田琉愛ちゃん。彼女は、鹿児島で暮らす普通の小学生なんですけど。

――現地オーディションで選ばれたとか?

小川:そうなんです。子供たちの中でも彼女がいちばん撮影シーンが多くて、向き合う時間も長かったんですけど、彼女は演技経験があるわけでもないのでやっぱり大変なこともいっぱいあって。撮影に入る前に、話し合いやリハーサルの時間をたくさん重ねていたんですけど、いざ撮影が始まると機材や人が増えた中で緊張したのか、やっぱり出るのやめるって言い出してしまって……。撮影の初日からいきなりそういうことになって、もうこの映画は撮れないのかもしれないって思いました。でも彼女が少し落ち着くのを待って話し合ったら、結局やってくれることになって。そこから撮影が続くあいだずっと、日々彼女の気持ちとか機嫌とかを気にしながらやっていました。

――なるほど。

小川:というか、最初はこっちもどうやって子供と向き合って、どういうふうに伝えたらいいのかわからないことばかりで。なので、探り探りいろんなことを試しながら……「この撮影が終わったら、ここにあるお菓子が食べられるよ」とか言ってみたり。そういう小手先のことをやってしまった時もあったんですけど、最後のほうに、クライマックスの大事なシーンを撮ることになっていて。その日ダメだったらどうしようって、すごく心配していたんです。で、その日の朝に琉愛ちゃんと話をして、「今日は大変なシーンがあるけど、相手役である主人公の花ちゃん(小川未祐)も今日は大変だから、花ちゃんと一緒に頑張ってみてほしい」って、もう真正面から伝えることにしたんですよね。

――ストレートに思いを伝えたわけですね。

小川:はい。そしたら、すごく理解してくれたんです。琉愛ちゃんは賢い子なので、小手先のやり方だとすぐにこっちの思惑を見抜かれてしまうんですけど、やっぱり子供と言っても、自分のためより他人のためのほうが頑張れるというか、ちゃんと真正面で向き合えば伝わるんだなって思って。そういう初歩的なことを、子供たちと向き合う中で教わったところがありました。

橋本:すごい大事なことは、小さくてもちゃんとわかっているんですよね。しっかり向き合って話したら、ちゃんと伝わるんやっていう。

――そう、この映画の撮影後、小川さんは保育士の資格まで取ってしまったとか?

小川:そうなんですよ(笑)。

橋本:ええ、すごい。

小川:子供たちと過ごしたのが、自分でもすごく楽しくて。子供ってホントに面白いと思ったというか、子供とちゃんと向き合うことで気づかされることがいっぱいあるなって思って。それで興味を持っていろいろ勉強し始めて……コロナ禍で時間があったというのもあって、資格も取ってしまいました(笑)。

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