最悪版『君の名は。』!? 『ザ・スイッチ』の過激な描写の裏にある真っ当なテーマ

 大ヒットしたアニメーション映画『君の名は。』は、高校生の男女の身体が入れ替わる設定のロマンティックな恋愛ストーリーだった。今回紹介する映画『ザ・スイッチ』は、女子高校生の身体が入れ替わるというところまでは一緒だが、その相手が中年の連続殺人鬼だったという設定。その意味では、まさに最悪版『君の名は。』といえる内容である。

 そんな不運過ぎる女子高校生ミリーを演じるのは、近年『スリー・ビルボード』(2017年)や『名探偵ピカチュウ』(2019年)など話題作への出演が続いているキャスリン・ニュートン。そして、殺人にしか興味のない殺人フリークの男を、ベテラン俳優のヴィンス・ヴォーンが演じている。もちろん見せ場は、互いに入れ替わった後の二人のユーモラスな演技だ。

 同時に、若者の問題が投影されている主人公のキャラクター造形には、じつはかなり切実なものがある。主人公ミリーは、父親が亡くなって以来、引っ込み思案な性格になり、陽気なキャラが大きい顔をしがちな高校生活の中では息苦しさを味わっている。アメリカでは、ここ10年で十代の自殺者が増加しているように、学生にとって学校を含めた生活環境は、まさに生死にかかわる危険なものとなっている。

 本作が痛快なのは、彼女を執拗に苦しめている同級生や、暴力的な体育会系(ジョックス)の男子学生たち、意地悪な教師などが、ミリーの姿となった殺人鬼によって次々に惨殺されていくところである。一部のシーンでは、このように殺人鬼の残忍な凶行を観客が応援してしまうつくりになっているのだ。逆に、主人公ミリーの力になってくれるのは、学校で同じように生きづらさを味わっている親友たち二人。ミリーを含めた、この三人組は、それぞれの理由で学生たちの主流派からあぶれているが、媚びを売って立場を確保するような態度を取ることもない。だからこそ観客は、身体を取り戻すために奮闘するミリーたちをも応援したくなってくる。

 ここで注目したいのは、監督と脚本を務めたクリストファー・ランドンの存在だ。本作は、ランドン監督にとって、興行的にも内容的にも大きな成功を収めることになった『ハッピー・デス・デイ』(2017年)、『ハッピー・デス・デイ 2U』(2019年)に続く監督作なのである。

 『ハッピー・デス・デイ』シリーズは、同じ一日をループしてしまう女子高校生の物語で、ジェシカ・ロース演じる主人公が、タイムループから抜け出すためにエクストリームな方法で何度も何度も前向きな死を繰り返す悪趣味な演出が話題を呼んだ。このシニカルで過激なユーモアと、アメリカの学生をリアリティを保ちながらポップに誇張する表現は、本作にそのまま活かされている。

 ランドン監督が誠実なのは、学生たちが味わっている現実をしっかり作品に投影している部分があるからだ。過去作『ゾンビーワールドへようこそ』(2015年)では、本作の三人組のように、ボーイスカウトに所属する、学校で人気のない三人組が登場する。彼らがパーティーや恋愛など学生生活を充実させたいがためにボーイスカウトを卒業しようと悩む姿が描かれるように、ボーイスカウトに入るタイプの男の子たちは、概してモテないという苦い現実を、そのまま作中で扱っているのだ。その上で、ボーイスカウトで得たスキルでゾンビの襲撃からサバイバルする過程を描くことで、三人が自信を得て魅力的になっていく姿を表現していた。人目を気にせず好きなことに突き進むのが本当に魅力ある人物だということだ。