『おちょやん』道頓堀の人々が前を向くが…… 気になるヨシヲ(倉悠貴)とビー玉
一度限りの須賀廼家兄弟劇を復活したあと、一平(成田凌)らは鶴亀新喜劇として新たにスタートをきった。そこには、万太郎一座にいた須賀廼家万歳(藤山扇治郎)と須賀廼家千兵衛(竹本真之)、そして鶴亀歌劇団から朝日奈灯子(小西はる)も参加することに。連続テレビ小説『おちょやん』(NHK総合)第93回では、戦争が終わった後の一座に訪れた様々な変化が描かれる。
一平は、千代(杉咲花)や団員らと共に鶴亀新喜劇として芝居を続けることを決断。新しい仲間となった灯子は、戦後の焼け跡で鶴亀家庭劇が演じたマットン婆さんを見て、一平らと芝居がしたいと思ったという。
一方、新しい演目の稽古では、千之助(星田英利)が自分で書いた台本のセリフを飛ばし、即興で繫げることすらできない事態に。自らの身に訪れた変化に動揺を隠せない千之助の頭の中には、かつての万太郎(板尾創路)の言葉がよぎる。「セリフは忘れる、即興も出えへん……そないなったら役者は終わりや」。
さらには一平と千代が片時も忘れずに身を案じ、帰りを待ち焦がれていた寛治(前田旺志郎)が満州から戻ってきたのだ。だが折角の再会に寛治は浮かない顔をしており、食事の席ではついに千代らに頭を下げると「また僕をここにおいてください、一緒に芝居をさせてください」と頼み込む。仕送りもせず、連絡もしなかった寛治に対して千代は、「あんたが無事に帰ってきただけで充分だす」と本当の息子のようにその存在を受け入れるのであった。寛治はポケットから袋に入ったビー玉を取り出すと、ヨシヲ(倉悠貴)のおかげで生きて帰ってこられたのだと千代に告げる。
今後の物語に大きく影響を与えるだろう出来事が立て続けに起こったこの日の『おちょやん』。戦後を歩む道頓堀の人々の思いが伝わるシーンが込められ、思わず胸が熱くなる。うどんを茹でながらもトランペット片手に笑顔を見せる一福(木村風太)には亡き父、福助(井上拓哉)の面影が重なるし、せわしなく働くみつえ(東野絢香)の姿からも、この親子がしっかり前を向いて進んでいることが伝わってくる。
だが戦争から戻ってきた万歳と千兵衛は、また万太郎と芝居がしたかったとぼやく。戦地で惨状を見てきた者にとって、その心に刺さった苦しみは計り知れない。新しい劇団で心をひとつにするのにはまだ時間がかかりそうだ。そして寛治がポケットから取り出したビー玉に込められた意味は。
戦争が終わり、立派な劇場の再建と共に多くの観客に愛されながら亡くなっていった喜劇王。道頓堀は大きく変わりつつあるのだ。別れの後に訪れる新たな出会い、そして再会は『おちょやん』をどう導くのだろうか。
■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/