『おちょやん』戦後の復興と時代の流れ ユーモアながらも切ない万太郎と千之助のやりとり

『おちょやん』万太郎と千之助のやりとり

 終戦から3年、千代(杉咲花)たちは地方を回りながら公演を続けていた。野外で行われた鶴亀家庭劇の芝居に、人々は明るい笑顔を見せる。NHKの連続テレビ小説『おちょやん』が第19週初日を迎え、戦後の復興や時代の流れが感じられた。

 鶴亀家庭劇の面々に、鶴亀の社長・大山鶴蔵(中村鴈治郎)から道頓堀に戻ってくるよう連絡が来る。大山は道頓堀を芝居の街として復活させるため、たった3年で、新えびす座を完成させていた。その新しい劇場は、空襲に遭い、焼け野原と化した道頓堀を微塵も感じさせないほど立派なものだった。大山は新しい劇団「鶴亀新喜劇」を発足させ、一平(成田凌)らを劇団員として迎え入れようとする。しかし一平は、戦時中に大山から劇団が切り捨てられたことから、快く承諾することはなかった。

 道頓堀では、みつえ(東野絢香)とシズ(篠原涼子)がかつて岡安があった場所で「岡福」といううどん屋を営んでいた。店の名前の由来が岡安と福富にある、という演出に
胸を打たれた視聴者も少なくないはずだ。戦争によってつらい別れを強いられたみつえら家族だが、前を向き、時代をたくましく歩み続けているのが伝わった。

 それから、第19週初日の物語で注目を集めたのは須賀廼家万太郎(板尾創路)のことだ。鶴亀家庭劇の座員は、大山が万太郎一座ではなく自分たちに声をかけたことに疑問を抱いていた。その理由は、万太郎にケンカを吹っかけに行った千之助(星田英利)とのやりとりで明かされる。万太郎は千之助に絡まれても一言も発せず、唐突にジェスチャーゲームを始める。千之助は、万太郎のジェスチャーから「わしはもうこえがでない」と読み解いた。

 喉のがんで声を失った万太郎と千之助のやりとりは、ユーモアたっぷりながらも切ない。万太郎を演じている板尾の悠然とした立ち振る舞いからは、声が出ないこの状況すらも楽しみ、喋れずとも人々を笑わせる気概が感じられる。しかし千之助が「しゃべってみいや、ああ? しゃべってみいて!」と食ってかかったとき、万太郎はニヤリと笑ってみせるも、当然ながら言葉を発することはない。二人のやりとりの後ろでは、万太郎一座の座員がすすり泣く声も聞こえる。芝居を続けるのが難しい、という現実が際立つ締め括りとなった。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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