マンハッタンの緊急事態をサスペンスフルに描く 『21ブリッジ』で辿る様々な犯罪映画の記憶
アメリカ最大の都市であるとともに、世界の最先端であり続けるニューヨーク。さらにその中核といえるのが、経済の中心地ウォール街や、ミュージカルの劇場が連なるブロードウェイ、セントラルパークやエンパイア・ステート・ビルなどがある、ハドソン川の中洲に位置する“マンハッタン島”である。もし、この島と陸地を結ぶ、21もの橋を全て封鎖したらどうなるのか……? 本作『21ブリッジ』は、そんなマンハッタンの緊急事態をサスペンスフルに描く、犯罪アクション映画だ。
面白いのは、ジャンルが絞りきれないほど、本作はその展開がスピーディーに目まぐるしく変わっていく点だ。そして、それらひとつひとつが、様々な過去の犯罪映画の記憶が焼きつけられている。ここでは、『21ブリッジ』とつながりのある映画作品を紹介しながら、本作の魅力を探っていきたい。
発端は、マンハッタンに隣接するブルックリン区のワイナリー。退役軍人の強盗コンビは、そこに密かに保管されているという30キログラムものコカインを盗み出すため店を襲撃する。しかし、そこにあったのは、予想をはるかに超えた300キロのコカインだった。こんなにも大量の違法薬物を盗み出せば重罪だ。そこに、タイミング悪く警官の集団がやってくる。焦った強盗たちは警官を撃ち殺し、激しい銃撃戦が始まってしまう。
その現場に急行したのが、本作の主人公であるアンドレ・デイビス刑事だ。演じているのは、『42 〜世界を変えた男〜』(2013年)や 『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』(2014年)で伝説的なアフリカ系アメリカ人を演じ、ヒーロー映画『ブラックパンサー』(2018年)のヒットによって世界的な人気俳優としてブレイクした、チャドウィック・ボーズマン。2020年に病気によって、残念ながらこの世を去ってしまったが、本作はそんなボーズマンの“最後の主演作”として、勇姿をとらえている。
アンドレ刑事は、撃たれて死亡した警官たちの姿を目の当たりにする。その中には、警察学校の同期だった人物もいた。強盗たちは7人の警官を殺害し、夜の闇に消えてしまったのだ。アンドレは優れた推理力を働かせ、犯人たちはマンハッタン島に逃げ込んだことを突き止める。そして、彼らを一網打尽にするため、夜の間だけマンハッタンの橋を封鎖し、島に大勢の警官を送り込むという奇策を思いつく。そんなアンドレの力となるのが、NYPD85分署のマッケナ署長(J・K・シモンズ)と、麻薬取締班のフランキー刑事(シエナ・ミラー)だ。警察の内部のそれぞれの葛藤が、『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)風にダークに描かれるとともに、『48時間』(1982年)における、“時間制限”のある捜査が展開されることになる。
マンハッタンの封鎖を描いた映画といえば、ゲームソフト『メタルギア』シリーズに大きな影響を与えた、ジョン・カーペンター監督の『ニューヨーク1997』(1981年)を思い出す。ここでは隔離されたマンハッタン島が犯罪者たちの巣窟となり、そこに大統領を乗せた専用機が墜落することで、カート・ラッセル演じるスネークが単身で救出に向かうことになる。本作『21ブリッジ』は、逆に警察官で島を埋め尽くすという、ダイナミックな展開が描かれる。警察が悪漢に集団で立ち向かうという構図は、『ダークナイト ライジング』(2012年)さながらである。この作戦によって、逃亡犯たちは着実に追い込まれていく。
アンドレが犯人に迫る場所は、『ジョーカー』(2019年)でもロケ地となっていた、まさにニューヨークを象徴する場所である、地下鉄駅構内。『サブウェイ・パニック』(1974年)や、そのリメイク作『サブウェイ123 激突』(2009年)で描かれたように、警察と犯罪者の駆け引きが、列車の運行とともに展開する。