『おんな城主 直虎』と重なった『天国と地獄』 森下佳子が高橋一生を通して描いた希望

 『天国と地獄 ~サイコな2人~』(TBS系)が終わってしまった。様々な考察が飛び交い、多くの視聴者が散りばめられたヒントを元に謎解きに夢中になったドラマであった。随分と惑わされてしまったが、最後に残ったのは、不条理で理不尽なことばかりの現代に投じる、真っ直ぐな願いと、高橋一生と綾瀬はるかが演じる日高と彩子の、「もう一人の自分」への深い愛の物語だった。

 脚本は、これまで『白夜行』『JIN‐仁‐』(共にTBS系)などで綾瀬と、そして大河ドラマ『おんな城主 直虎』(NHK総合)で高橋と組んできた森下佳子である。

 さて、少し暴論をお許しいただきたい。第9話、第10話を観ていて『おんな城主 直虎』で高橋一生が演じた小野但馬守政次を思い起こさずにはいられなかった人は少なからずいたのではないだろうか。政次は、主人公・直虎(柴咲コウ)はじめ井伊谷の人々を守るために、やってもいない罪を被り、死罪になる。彼の思いを汲んだ直虎は、共に地獄に落ちる決心をし「地獄へ落ちろ、小野但馬」と言いながら、自ら槍を彼の身体に突き立てたのだった。

 彩子(in日高)は第4話において「この際、2人仲良く地獄行きと行きましょうよ。それがあるべき世の姿なんだから」と日高に投げかける。それに対し、第9話においては日高が「捕まるならあなたがよかった。何も2人して地獄に行くことはない」と彩子に投げかけ手錠をかけられる。

 その後、月明かりに照らされた留置場の中の日高は、『おんな城主 直虎』における牢の中の政次そのものであるし、彩子の懸命な説得を、穏やかに拒み、全てを自分の罪として受け入れ、死刑台行きが決まる書類にサインする日高もまた、やってもいない罪を受け入れる政次と重なった。被害者感情、警察の面子諸々を考慮して、日高の自白に乗じ、冤罪を作り上げようとする警察組織の不穏な流れのポジションを担うのは、『直虎』で言えば、橋本じゅんが演じた近藤康用らだろうか。それらに抗うように、靴を捨てて階段を一気に駆けあがる彩子の笑顔は、まるで日高と入れ替わっていた時、“人を殺した・殺すのではないか”と視聴者に思わせていた時の彼女のような、過度に上気した顔だ。

 ここまでは同じだった。だが彩子並びに森下佳子は、日高に政次と同じ道を選ばせなかった。日高が一人地獄に行くのを彩子が見送るのでも、共に地獄に落ちるのでもなく、この理不尽なことばかり許される、当たり前のことが成り立たない、地獄でもないけれど天国でもないこの世界を、共に生き続ける道を選ばせたのである。この秘められた「政次アナザーエンディング」はまるで、森下佳子がコロナ禍という先行き不透明な現代を生きる私たちに贈る「希望」だ。

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