『おちょやん』と『スカーレット』の共通点を探る 父の死がヒロインにもたらしたもの
『スカーレット』は戦後、昭和22年の春に喜美子が家族と滋賀県の信楽に引っ越してきた場面から始まる。亭主関白で、貧乏なのに酒を飲んでは強気なことを言って、借金ばかりするダメな父親・常治。テルヲと常治は酒飲みで自分勝手という共通点があるが、常治は仕事をしている。信楽に引っ越してきた理由も、常治が戦場で大野忠信(マギー)を助けたことで感謝され、家や仕事を世話してもらうことができたからだ。
常治は自分を大きく見せようと見栄を張る典型的な昭和のダメ親父だが、困った人を見捨てられないお人好しなところもある。喜美子に干渉するのも強い愛情があってこそ。ただ、常治も喜美子の給料を当てにして商売を拡大しては失敗していたので、喜美子の人生にとって負荷になったことは間違いない。
子供の頃から勉強よりも家計を助けることを優先し、自立しなければならない状況だったのは千代も喜美子も同じ。芯が強いうえに自立心が養われたこともあってか、結婚相手も当然自分で決めている。そんな娘の結婚を知ったテルヲは「あかんど千代。役者同士が一緒になったかて幸せになんかなれるはずあれへんがな。苦労すんのは目に見えてるがな。そんなもん、わし、絶対許さへんで」と役者と結婚することも、千代が役者を続けることも反対した。「ええお母ちゃんになり」と子供を産んで母親になって普通の幸せを手に入れるよう、諭した。
『スカーレット』の喜美子は陶芸を教わるうちに十代田八郎(松下洸平)と恋に落ちた。周囲は喜んでいるにも関わらず、父・常治だけは結婚を反対した。八郎の誠実さと根気強さで、陶芸展での受賞を結婚の条件に許したものの、自分のことは棚に上げて安定した職業の相手をのぞむ親心。わがままで愛情に飢えた父親ほど、娘の結婚相手に娘を奪われてしまうという気持ちが強いのかもしれない。
常治は、喜美子と八郎が結婚して落ち着き、孫の武志(又野暁仁)が4歳のかわいい盛りに病に倒れた。喜美子は弱っていく常治のために八郎が素焼きした大皿に家族一人一人が常治へのメッセージや絵を描いて作品を仕上げた。その大皿を見て「ええ皿やなぁ」と満足そうに涙をにじませ、家族や世話になった大野家の人たちに見守られ、安らかに息を引き取った常治。喜美子と八郎に「仲ようせえよ」という言葉も残せて、穏やかな、理想的な別れとなった。
千代とテルヲの場合は、千代のことも恨んで生きてきたヨシヲ(倉悠貴)の存在もあり、すべてを許せる状況はすでに超えている。許すことはできないけれど、千代は思いを吐き出し「悔しいけど、あんたはうちのお父ちゃんや」と、テルヲに生きる希望を感じさせた。しかし、テルヲが最期を迎えたのは獄中。最期に幻の“2人の千代”に見送られたが、常治と比べれば雲泥の差であるだろう。
とはいえ、「千代のこと、よろしう頼んます」とテルヲが頭を下げて回ったことで、親子の別れの後に抱えるわだかまりを理解しようとしてくれる人たちが千代のもとに集まった。岡安の人たち、福富楽器の人たち、鶴亀家庭劇の仲間たちみんなが複雑な心中の千代に寄り添い、テルヲとの思い出を話すことでテルヲも救われる形になった。
『スカーレット』では常治の死後、喜美子の心に“自由”が芽生え本格的に陶芸家への路を歩み始めた。千代もまた、テルヲの死が女優としての覚醒に結びついていくのかもしれない。
■池沢奈々見
恋愛ライター。コラムニスト。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/