『俺の家の話』戸田恵梨香の女子力スイッチがON ついに気持ちを確かめ合った寿一とさくら

 ただ、好意を告げられた寿一にとってはタイミングが悪かった。これまで友好的な関係だった元妻ユカ(平岩紙)と息子・秀生(羽村仁成/ジャニーズJr.)の親権をめぐって争うことになり、弁護士も交えた調停の場に臨む。そこで修羅場となり、プロレスラーだったとき2年半も海外にいて音沙汰なしだったことを蒸し返され、ユカから「私のことなんて、いっぺんも好きになってないやろ」となじられる。寿一は「ホントに夫婦だったんだけどなぁ」と落ち込み、自信を失ってしまう。

 ユカが言うことは当たっていて、寿一は心の底からは彼女を欲していなかったのかもしれない。“ブリザード寿”のファンだったユカにリング上で必殺技の“寿固め”を決めながらプロポーズはした。結婚もしたし、子供も作った。しかし、父・寿三郎とうまくいかなかったというトラウマを抱える寿一は、子供や妻と向き合えなかった。さらに「(家の中で)殺気を放っていて怖かった」と言われてしまった。寿一はさくらに「誰かを幸せにする自信がないんです」と正直に告げる。しかし、さくらは寿一が“山賊だっこ”をしてくれたから好きになったのであり、プロレスラーであることは「大前提」だという。寿一をスカイツリーに例え、「存在が大きすぎて近くにいると見えないけれど、私は登った(山賊だっこをした)から平気」と言うシーンが印象的だった。さくらなら寿一のトラウマに寄り添い、寿一が弱音を吐いても受け止めてくれる。

 第7話のラスト、リングで戦う“スーパー世阿弥マシン”こと寿一に、さくらが声をかけ、寿一は元“ブリザード寿”だとバレることを承知で寿固めを決めた。ユカにプロポーズしたときと同じ技をしながら同じ言葉「必ず幸せにしまーす」と叫んだ寿一。良くも悪くもバリエーションはない。しかし、寿一が自身のトラウマと向き合っている今、今度こそ上手くいくのではという希望も感じさせる。42歳の寿一と33歳のさくらの再出発を応援したくなった。

 戸田と脚本の宮藤の組み合わせといえば、東野圭吾原作の『流星の絆』(2008年/TBS系)。この作品で戸田は血のつながらない兄2人からお姫様のように大切にされる妹・静奈を演じた(ちなみに寿限無役の桐谷健太は静奈をいじめる上司役だった)。もともとファム・ファタール(運命の女)的なモテ役が似合う俳優なのだ。しかも、男たちから思われるだけでなく、自分からがんがんアポローチしていく役もできるし、そういった演技にリアリティがあって上手い。最近のキャリアから考えると、朝ドラ『スカーレット』(NHK)に主演した後なので、本来なら3年前、同じ金曜ドラマ枠で放送された『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)のような主演ドラマが望ましいが(朝ドラの後は主演で通す俳優も多い)、『俺の家の話』は主演でなくてもやりたいと思う座組だったのだろう。配役としては、短期間で恋愛の受け手から攻める側へ転換するさくらという役は、まさしく戸田にぴったりだった。

 寿一とさくらが気持ちを確かめ合い、秀生が能の稽古を続けられることになり、寿三郎の“物盗られ妄想”も誤解だったということになり、全てが丸く収まったように見えるが、3月12日放送の第8話では、寿三郎がまださくらに財産を譲ると言って困らせるようだ。兄の裏切りを知った踊介の逆ギレもありそうで怖い。さくらをめぐって、もうひと悶着起こるのか。女のスイッチどころか家庭内クラッシャーになってしまうのではないかと、ドキドキしながら見守りたい。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:長瀬智也、戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、井之脇海、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、羽村仁成(ジャニーズJr.)、荒川良々、三宅弘城、平岩紙、秋山竜次、桐谷健太、西田敏行
脚本:宮藤官九郎
演出:金子文紀、山室大輔、福田亮介
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未、佐藤敦司
編成:松本友香、高市廉
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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