倉悠貴が『おちょやん』で与えたインパクト 無言でも映える独特の雰囲気

 『おちょやん』で演じた竹井ヨシヲは、千代が9歳の頃に道頓堀の芝居茶屋「岡安」へ奉公に出された為に、千代とは生き別れとなった弟。その間、消息不明となっていたが、劇団の「鶴亀家庭劇」で女優として活躍するようになった千代の前に突如現れ、舞台上で千代にキスをした天海一平(成田凌)を、町中で突如殴るという衝撃的な登場を果たした。一見立派に成長した大人に見えるが、実際は体に刺青を入れたヤクザ者。「鶴亀家庭劇」に脅迫電話を入れ、仲間と芝居小屋を放火しようと企むなど、かなりショッキングな変わりようだ。

 刺青姿がすでに壮絶な人生を歩んできたことを表現していたが、それ以上に、成功している姉に対しての妬みなのか、自分に対する虚しさなのか、ヨシヲの表情や雰囲気がいつも儚く、それでいて、ヤクザとは言え拾ってくれた恩義を感じるなど弟らしい真面目さと可愛らしさが見え隠れし、その雰囲気が極道の道に行かざるを得なかった悲しき運命を物語っていたように思う。成田凌が「お前はなんもしなくていいから」「表面的な悪いキャラじゃなく、やりたいようにやったらいいよ」とアドバイスされたと公式インタビュー(参照:倉悠貴さん #1「なにもしないことを目標に、ヨシヲを演じています」)で語っていたが、わざと悪ぶった役作りでないからこそ、ヨシヲの人生の重さを感じることができる。もしかしたら、成田もまた前述したような倉独自のキャラクター性を見抜いていたのかもしれない。倉にまだ馴染みのない視聴者も多かっただけに、変に先入観を持つことなく、ヨシヲとしての人生が想像できるから、よりキャラにも感情移入ができる。功を奏したキャスティングだったのではないだろうか。

 昔を思い出し、千代が作った茶がゆを食べるシーンは、色んな思いが交差し、観ていて涙がでてくる。しかし、千代から家族の優しさを知ったために、極道を続けるにしても、抜けるにしても、これまで以上の壮絶な人生が待ち受けていると考えると心が痛む。次に登場する時を期待したいが、どんな姿を見せるのか。

 現在公開中の映画『樹海村』では金髪姿でお調子者という新たなイメージの役を演じ、3月19日公開『まともじゃないのは君も一緒』では成田凌と再共演するなど、他にも出演作が控え、今年ブレイクが期待される倉。デビューからまだ2年という早さだが、儚さと色気、そしてどこか純真な心を持った役を演じさせるとハマる倉は、どこか高良健吾のような、変幻自在にその役柄に魂を落とし込む、いい意味で“芝居”を感じさせない役者になっていくと考える。今や山田裕貴や磯村勇斗など、『HiGH&LOW』世代のギラギラした役者が最前線で活躍しているが、その次世代を担うことになるかもしれない。

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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