山田裕貴だからこそ成立した高柳の佇まい “善悪”を問い直す『ここは今から倫理です。』
また、第3話では、女子生徒が奥手な男性教師を誘惑して、その結果セクハラであるとでっちあげようとしている出来事が描かれる。教師は女子生徒の誘惑を自分への純粋な愛だと勘違いし、高柳に相談する。高柳は、本気になった教師に対して「それは愛ですか? 弱きものを性的欲求のはけ口にしているのではなく?」と問い正すのだ。
同時に高柳は、生徒と教師の愛を必ずしも悪いことではないとも考えている。しかし、すでにアイデンティティが確立している成人と、そうではない青年期の女子生徒の恋愛は、フェアな恋愛関係が成立しにくい。高柳は「教師の持つ権力を笠に成立しているのなら、それは恋愛ではなくセクハラです」と説く。
その一方で「もし仮に、2人の関係が本当に対等であるのならば、恋愛していいと私は思っています」「規則違反はいけないけれど、その規則が本当に心から結ばれたいと願う2人を結ばせないものならば、その規則自体が、人は自由に恋愛していいという社会の決まりを破ることになるから」と語る。
このシーンを観て、男女交際禁止の高校で、生徒同士が恋愛したことによって退学を勧告された裁判の話も思い出された。
同時に山田裕貴が教師役で主演した『ホームルーム』(MBS)にもつながっているようにも思えた。『ホームルーム』は、山田演じる人気教師がその権力を笠にある女子生徒のストーカーとなり、それがゆがんだ愛であるとされながらも、次第に女子生徒も教師に対して倒錯した愛を見出すという物語。2人の関係は、倒錯したままにある種、成就するというものであった。
ふたつのドラマはつながっているわけではないが、過去に山田が演じた役柄もあって、高柳の過去に深みを与えているようにすら見えてしまった。もしかしたら、ほかの人が演じても、こうしたどこか世の中をあきらめたような、でもあきらめられないような存在感は、出せていなったのではないか。
このように、毎回、このドラマで描かれる生徒の悩みは、実は自分の身の回りや社会で起こることにつながっている。それは、何も偶然ではなく、何かが起こると、善悪が単純化されて一方的に語られ、自分で考えることもなしに解決したように次へ次へと進んでいく世の中に困惑した気持ちがあり、そんなことをひとつひとつ解き明かしているからではないかと思えるのだった。
■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。
■放送情報
よるドラ『ここは今から倫理です。』
NHK総合にて、毎週土曜23:30~放送【全8回】
出演:山田裕貴、茅島みずき、池田優斗、渡邉蒼、池田朱那、川野快晴、浦上晟周、吉柳咲良、板垣李光人、犬飼直紀、杉田雷麟、中田青渚、田村健太郎、梅舟惟永、異儀田夏葉、藤松祥子、川島潤哉、三上市朗、陽月華、山科圭太、木村花代、古屋隆太、成河
脚本:高羽彩
原作:雨瀬シオリ『ここは今から倫理です。』
制作統括:尾崎裕和、管原浩
音楽:梅林太郎
演出:渡辺哲也、小野見知、大野陽平
写真提供=NHK