七尾旅人、濱口竜介らの絶賛コメントも 『二重のまち/交代地のうたを編む』予告編公開

『二重のまち/交代地のうたを編む』予告編

 2月27日に公開される映画『二重のまち/交代地のうたを編む』の予告編が公開。あわせて、各界の著名人より絶賛コメントが寄せられた。

 本作は、東日本大震災後のボランティアをきっかけに活動をはじめ、人々の記憶や記録を遠く未来へ受け渡す表現を続けてきたアーティスト「小森はるか+瀬尾夏美」によるプロジェクトから生まれたドキュメンタリー。『二重のまち』とは、かつてのまちの営みを思いながらあたらしいまちで暮らす2031年の人々の姿を、画家で作家の瀬尾が想像して描いた物語。陸前高田を拠点とするワークショップに集まった初対面の4人の若者たちが、自らの言葉と身体で、その土地の過去、現在、未来を架橋していくまでを、映像作家の小森が克明かつ繊細に映していく。

『二重のまち/交代地のうたを編む』予告編

 公開された予告編では、陸前高田を訪れた4人の若者たちが、まちの人々の話を聞き、それを自らの言葉で語り直すプロセスが映し出されている。予告編ディレクターを、 『息の跡』でプロデューサー・編集を務め、『阿賀の記憶』 『ニッポン国VS泉南石綿村』『水俣曼荼羅』 などの編集を手がけた秦岳志が担当している。

 また、赤坂憲雄(民俗学者)、岡田利規(演劇作家・小説家)、小野和子(民話採訪者)、寺尾紗穂(文筆家・音楽家)、こうの史代(漫画 家)、七尾旅人(シンガーソングライター)、濱口竜介(映画監督)の7名が絶賛コメントを寄せている。

コメント

赤坂憲雄(民俗学者)

二つのまちを往還する声に、身を寄せる旅人たち。語りえぬ受苦に寄り添い、ただ共に在ること。ていねいに想うこと、伝えること。災厄の記憶は風化ではなく、浄化を、と囁く声がする。

岡田利規(演劇作家・小説家)

忘れられるべきでない出来事・思い。それが、しかし果たしてこの自分にそれを語り継ぐ資格はあるか? と逡巡する若者たちによって、その逡巡ごと、この映画の中で確かに伝えられている!

小野和子(民話採訪者)

この足の下に、もう一つの町が存在する――この感覚が捉える切実な詩情にうたれた。地割れと怒涛に町は消えたのではない。そこに生きて「在る」のだ、今も。四人の若者たちの存在は、それを語りつづけるために蒔かれる種なのだ。

こうの史代(漫画家)

これは、ちいさなちいさなタネのような映画。笑みや涙がこれからいくたびも心に降りつもれば、しずかに目覚めて根と葉をのばす。それがいつだとしてもその芽を見失わないように、心を澄まして生きてゆこう、そう決めました。

寺尾紗穂(文筆家・音楽家)

どのように足掻いても私はあなたになれずあなたの話を再現することもできないのだと表現者たちが気づいたとき紡がれた物語はそれぞれに光り始める。

七尾旅人(シンガーソングライター)

3.11 震災の年から10年に渡って陸前高田に滞在し、地元の方々とふれあい、失われていく物語を記録し続けて来た瀬尾夏美さんと、小森はるかさん。初めて出会った日、まだ二十歳そこそこだった彼女たちの存在は、僕が「Memory Lane」のような曲をいまも変わらず歌い続ける理由になっていた。青春期の丸ごとと言ってよい年月を費やして、ただ真摯にひとつの景色を見つめ続けた2人の記念すべき映画が、「人々の記憶を代弁することの困難さ」への言及で幕を下ろした時、言いようのない感動を覚えた。防潮堤の下に埋もれた、かつての通学路、思い出の小道。「二重のまち」の底層にたゆたう、愛しい人々の記憶。その輝きを、悲しみを、損なうまいと、慎重に言葉を選ぼうとする、いつかの2人のような、若者たち。新しい語り手たちが抱える懊悩。記憶のバトンは継がれていく。過去のために、現在のために、未来のために。この映画を観た誰かが、自らの足元にふと目をやるだろう。アスファルト、コンクリート、土、草、砂。靴底を支える地面の、その下。今の私たちを成り立たせる、かつての街について、想像を巡らせずには居られないだろう。すべては過程の中にあり、けして終わっていない。

濱口竜介(映画監督)

作者たちによって「編む」こととして提示された一連の行為は、観客にとっては不可解な儀式の連続でもある。なぜ聞くこと、話すこと、そして読むことを繰り返しているのか、それが観客に知らされることはない。観客は手探りをしながら、この作品と付き合う必要がある。かえってそのことで発される一言一言が、一つの事件のようにも響いてくる。人の声を聞くことを生業としている者として言えば、こんな声を聞き続ける体験はほとんどない。自分の言葉を、自分の身体から切り離さないように発する人たち。しかしだからこそ、その一言は事態をどこかへ急に連れていきはしない。彼らは、何かをし「あぐねて」いる。そのことはわかる。結論を早急に求める人や、既に出してしまっている人にはこの停滞にも似た「あぐねる」は内向的か、愚かにも映るだろう。しかし、キャストとして選ばれた4人の若者は、むしろ各々に固有の聡明さによって「あぐねる」のだ。「編む」という語から示唆される交錯は人との出会いや対話として、上下動は想像の駆動として現れる。それはむしろ、容易に答えに至ることを徹底的に迂回するための営みとしてある。「あぐねる」ことが具体的な行為として、運動として提示されていることが、この記録・作品の計り知れない価値だ。『二重のまち』は、あらゆる場所が「二重」である可能性(もしくは事実)を提示して終わる。私たちにも「あぐねる」ことが必要なのかもしれない。だが現実に、それが可能な場を構築し、保持することの労苦もまた計り知れない。誰かがやらなくてはいけないが、誰でもできるわけではない。瀬尾・小森の十年の営為に、心からの敬意を表する。

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■公開情報
『二重のまち/交代地のうたを編む』
2月27日(土)より、ポレポレ東中野、東京都写真美術館ホールほか全国順次公開
監督:小森はるか+瀬尾夏美
出演:古田春花、米川幸リオン、坂井遥香、三浦碧至
撮影・編集:小森はるか、福原悠介
録音・整音:福原悠介
作中テキスト:瀬尾夏美
ワークショップ企画・制作:瀬尾夏美、小森はるか
スチール:森田具海
配給:東風
(c)KOMORI Haruka + SEO Natsumi

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