『アルプススタンドのはしの方』はいま必要な一作 挫折を知った高校生が教えてくれること

 この映画は、高校演劇初の映画化である。

 高校演劇の長い歴史を考えると、不思議な気もするが、それだけ映画が手を出しにくい世界であったのかもしれない。

 全国大会出場を目標にした場合の高校演劇には、1時間以内、というルールがある。ここが、制約でもあり、自由でもある。

 わずか60分で物語るのは難しくもあるが、楽しくもある。高校演劇を観ていると、「たった1時間でここまで描けるんだ!」と感動することが多い。

 『アルプススタンドのはしの方』もまさにそのような作品で、だからこそ全国大会で優勝し、語り継がれる名作となった。

 映画版は、エピローグがプラスされ、また、舞台では描かれなかった人物のエピソードも加えられている。だが、それでも80分以内。なのに、これだけ豊かなのだ。

 もちろん、それは脚本の細やかさ、作劇の巧みさによるものだが、それ以上に、キャラクターひとりひとりが愛すべき人物として肯定されている点がとにかく素晴らしい。

 舞台は、甲子園の応援席。そこに、4人の高校生がいる。4人は近づいたり、離れたりを繰り返しながら、対話を続ける。描かれるのは、それ以上でも、それ以下でもない。

 演劇部の部長で、ある挫折から、脱力せざるをえなくなっている女子。ほんとうは真っ直ぐな性格なのに、少し斜に構えて振る舞っている様が、一周まわって健気。この絶妙な温度感。

 そして、部長の挫折の原因を作ってしまったことに後ろめたさを感じている女子部員。お互い、そのことを気にしているからこそ、距離が遠いありようが、逆に本質的な仲の良さを浮き彫りにする。この部員も、うだうだと、裏っ返しの明るさがなんとも憎めない。

 また、元野球部の男子。演劇部のふたりは野球のルールがわからないまま、試合を眺めているので、彼はちょっとした指南役だ。とりたててポジティブなわけでもないが、わかりやすくネガティブなわけでもない。何気にフレンドリーだし、案外クールだし。ありきたりではないのに、どこまでも「普通」な男子高校生像が、たまらなくいい。オス感はないが、中性的でもない。4人のうちで男子はひとりなのに、絶妙なバランスを形成している。いい男の子だ。ほんとうにいい男の子だ。

 さらに、帰宅部の優等生。彼女は、学年トップの座を奪われたばかりで、おそらくは初めての挫折。そのことを気にしていないふうを装うが、好きな男子の話となると、ぽろぽろ本音がこぼれ落ちる。可愛い。ほんとうに可愛い。

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