すべての“敗者”に捧げるドキュメンタリー 『らいか ろりん すとん』が突きつけるコロナ禍の現実

 本作の合宿初日から合格までの姿を観ていると、ワキワキワッキーが“勝ち”にとらわれ過ぎていたこと、あまりにも人生を懸けていたことで、どこか合宿で燃え尽きてしまったような印象を受けました。ただ、2020年がコロナ禍でなければ彼女を待っていたものは全く違うものだったかもしれません。合格後すぐに緊急事態宣言に突入したこと、観客を前にライブができなかったことなど、ユウドット・comに待ち受けていたものは限りなくイレギュラーな状況であり、「ファンの前に立ってアイドルになる」ということが抜け落ちてしまったのが残念でならないです。

 映画では脱落してしまったインポッシブル・マイカのその後の姿も描かれますが、その表情は明るく、勝たなかったからこそ得たものがあったことが垣間見えます。現役のWACKメンバーもオーディションで脱落しながらも再挑戦でデビューを果たしていることが象徴的なように、脱落=門戸が閉ざされるではありません。ポスターにも書かれている本作のキャッチコピー「勝たないと何も無くなっちゃう非常なせかい」とは逆に、「“敗者”にこそ一歩進むことができるせかい」があるように本作を観て感じました。

 どんな形にせよ、敗者となってインポッシブル・マイカが前を向いていたように、ワキワキワッキーも負けることを知った勝者として、再びエンタメの世界に舞い戻ることを期待したいです。最後に、本作の主演女優はワキワキワッキーとインポッシブル・マイカで間違いないと思いますが、最高の助演女優としてBiSH セントチヒロ・チッチが輝いていたことも付け加えたいです。候補生を厳しく、優しく、本気で導いていく姿には惚れました。

■公開情報
『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』
テアトル新宿ほか全国順次公開中
監督:岩淵弘樹、バクシーシ山下、エリザベス宮地
プロデューサー:渡辺淳之介
出演:オーディション候補生、BiSH、BiS、EMPiRE、CARRY LOOSE、豆柴の大群、GO TO THE BEDS、PARADISES、WAgg
撮影:岩淵弘樹、バクシーシ山下、エリザベス宮地、白鳥勇輝
配給: 松竹 映画営業部ODS事業室/開発企画部映像企画開発室
(c)WACK INC.
公式サイト:http://rolin-ston-movie.com

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