『岸辺露伴は動かない』脚本・小林靖子が大事にした荒木飛呂彦イズム 「台詞に“ッ”を入れちゃう」
『ジョジョの奇妙な冒険』の根幹にある“おかしみ”
ーー荒木先生とも連絡を取り合いながら?
小林:荒木先生にも、たくさんご協力いただきました。改編についてのOKや、先生の方からもこういう感じでとお話をいただきました。
ーーそれはどのような?
小林:『岸辺露伴は動かない』は、どちらかと言えばホラー、シリアス路線の感じで考えていたんです。けれど、先生からのフィードバックを重ねているうちに、『ジョジョ』っていうのは“奇妙”がついているだけあって、単に怖いではなく“おかしみ”が重要なんだと。8年もアニメをやっていたのに、それを忘れがちになっているところが途中あったんです。そんなときに、先生から「面白くしたいんだ」という言葉にハッとさせられて。今回、『ジョジョの奇妙な冒険』の根幹にある“おかしみ”を先生に改めて教えていただいた感じです。
ーーその“おかしみ”について詳しく聞きたいです。
小林:具体例になりますが、「女の子の逆さ言葉」(第3話「D.N.A」より)は、実写でやったらギャグになっちゃうんじゃないかとどうしても思っていたんですが、先生はそこにこだわられていたりするんです。言われてみると「そうだよね。『ジョジョ』ってこういうことだよね」と。“ジョジョ立ち”や「だが断る」(岸辺露伴の名台詞)も、ちょっとギャグみたいに捉えて面白がっているファンも多いじゃないですか。そういったセリフ回し、シチュエーションが、実写でも妙なおかしみになって印象に残るんです。
ーー撮影には足を運ばれたのですか?
小林:撮影は行けなかったんですけど、高橋一生さんやほかのキャストの方の写真を先に見せていただいたんです。皆さん“実写風”に落とし込んでくださっていて、一生さんは『ジョジョ』の大ファンでらっしゃるということもお聞きして、すごく期待値が上がりました。
ーー“実写風”というのは?
小林:原作の色使いを、そのままやってしまうと厳しいものがあると思うんですけど、露伴の髪型、衣装、形、それら全てがシックな感じに落とし込まれていたんです。普通に街を歩けるかと言われれば、微妙なラインですけど……(笑)。
ーー脚本を作る上で荒木飛呂彦イズムを残した部分はありますか?
小林:脚本上で言うと、セリフ回しでしょうか。アニメの時もそうだったんですが、観ている方には文字は見えないのに、どうしても台詞に「ッ」を入れちゃうみたいな(笑)。「じゃあないッ!」はアニメでは厳密に再現したんですが、今回の実写では、生の俳優さんがやって、それを知らない人が観て、どう捉えてもらえるのか計算ができませんでした。台本上はアニメよりは控えめにして、あとは現場にお願いしました。ファンの方もいろいろで、ライトな方もいれば、セリフの一語一句まで覚えているような方もいる。今回は、台詞を全部覚えているような方は意識せずに、ライトな方に向けて「岸辺露伴はこうだったよね」という風にやらせてもらいました。原作(『岸辺露伴は動かない』)は『ジョジョの奇妙な冒険』第4部の露伴とは少し違うんですよね。年齢もちょっと違いますし、生きているのもスマホがある時代だったりするので、そういう意味でも今回のチョイスがいいなと思いました。
ーーあまり詳しくない方に向けての作品でもあると。
小林:自分の願いも含めてなんですけど、詳しくない方も荒木作品に映像として触れることで面白いと思ってくれるとうれしいです。本作を通して荒木作品の片鱗に触れていただければと思います。
ーー小林さんが思う「岸辺露伴」の魅力を教えてください。
小林:露伴は自身の作品のために蜘蛛を食べることもある(味覚でも蜘蛛を知って作画に活かすため)、とにかくエキセントリックなキャラとして描かれています。先生もこんなに息の長いキャラだとは思ってらっしゃらなかったんじゃないでしょうか。そのエキセントリックさに加え、俺様キャラなんですが、意外と不幸に巻き込まれるキャラでもある。ちょっと可哀想な面が出るのが露伴の愛される魅力なのかなと。どんな人の評価にも揺らがない姿勢かと思えば、繊細な部分もあったり。天才キャラでありながら非常に人間的でもある多面性が岸辺露伴がこれだけ確立したキャラとして読者に愛される理由だと思います。スタンド(特殊能力)の「ヘブンズ・ドアー」は考えようによっては無敵ですし。そんなところも支持を集める理由ではないでしょうか。