杉咲花×篠原涼子、“瞳”で対峙した名演 『おちょやん』千代からシズへのまっすぐな思い

「千秋楽の明くる日の朝、ここで待ってる」

 20年ぶりに思わぬ再会を果たした歌舞伎役者・早川延四郎(片岡松十郎)から、そう告げられたシズ(篠原涼子)。『おちょやん』(NHK総合)第14話では、今でもシズの幸せを願う延四郎の思いを聞いた千代(杉咲花)から、幾度目かの手紙を託され揺れる、シズの姿があった。

 シズにとって、延四郎は昔の恋仲であり、恩人。当時、岡安を継ぐため、お茶子修行を始めたシズだったが、何をやっても上手くいかない。辞めようと思っていた時に、シズへと励ましの言葉を送ったのが延四郎だった。「ちょっとくらい鈍臭い方が、私はほっとする。そないな子が頑張って一人前になっていくのを見ると、自分も励まされる」と。手紙を読んでしまったら会いたくなってしまう。千代から無理矢理に渡されたその手紙を人知れず破り捨てる姿には、シズの確固たる信念が感じ取れる。それは、これ以上岡安の看板に泥を塗ってはいけないという、女将としての重責だ。

 延四郎が最後の艶姿を飾る日、岡安は役者の後援会などが団体で芝居を見る組見を翌日に控えていた。つまり、岡安は火事場の大騒動の如く、お茶子全員が走り回る日。千代はそんな折、延四郎に会いに行ってほしいとシズに伝えるのだった。「自分がどないしたいのかちゃんと考え」「そないせな後悔する」。年を越して18歳になったら年季明けを迎える千代にシズはそう言い聞かせていたが、それはそっくりそのまま自分自身にも当てはまる言葉だった。岡安には富士子(土居志央梨)も、かめ(楠見薫)もいる、だから……とすんなりシズが納得するわけもなく、机を叩き、千代を一喝。それでも、千代は視線を逸らさず、真っ直ぐに思いをぶつけていく。

 自分の意思とは関係なく、気づいたら奉公に出され岡安でお茶子として働いていた千代。福富の一人息子・福助(井上拓哉)から、この先芝居茶屋がなくなると聞いたのも相まって、千代に生まれて初めて浮かんだのが、「ご寮人さんに恩返しがしたい」という思いだった。8年前、右も左も分からない千代を最後まで見捨てずに救ったのはシズ。自分と同じようにシズには後悔をしてほしくないというのが千代の思いだ。瞳に今にも溢れんばかりの涙を浮かべる篠原涼子に、一瞬鼻を啜って持ちこたえた杉咲花。2人の思いだけでなく、演技もぶつかりあった初めてのシーンだ。

 千代の思いとお茶子たちへの信頼から、シズは延四郎に会いにいくため1日休みを取る。婿として頭が上がらないのもあるが、シズがどこに行くのかを知りながらそれを許す宗助(名倉潤)の優しさも感じられる。「よっしゃ!」。シズのいない岡安で威勢良く気張る千代。シズが待ち合わせ場所に到着した頃、延四郎は芝居小屋で倒れていた。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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