“動き”にこだわったアニメがトレンドに? 『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『ヒロアカ』などから探る
『進撃の巨人』や『甲鉄城のカバネリ』、『文豪ストレイドッグス』等々、バトルシーンの完成度が高い作品は熱量と没入感が高く、観る者を前のめりにさせてくれるもの。その最前線といえる『鬼滅の刃』には、実にワクワクさせてくれる要素が満ちている。
カメラが高速かつ縦横無尽に動く人物を追いかけるだけではなく、カメラ“自体”も自在に動くという外連味あふれるカメラワークや、主人公の竈門炭治郎が「水の呼吸」を発動した際の浮世絵的な渦潮の表現、「ヒノカミ神楽」発動時の荒々しく立ち上る炎の魅せ方(ちなみに、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』劇場パンフレットを参照すると、煉獄杏寿郎が使う「炎の呼吸」の表現は「鳥羽伏見の戦い」の錦絵に影響を受けたそうだ)等々、映像的な創意工夫が多数仕掛けられている。
前方にいるキャラクターの輪郭を太く、濃く描くことで遠近感を強調する手法や、カット割りや映像構成においては書道の「とめ・はね・はらい」的な緩急が細部にわたって施されており、「刀を振り下ろす瞬間、画面が据え置きになる」「戦闘中、モノローグに合わせてスローモーションになる」「高速移動する際、画面後方からカメラに体当たりするくらいまで一気に近づく」「戦闘中、あえて特定部分のピントをぼかすことで臨場感を出す」と、どのシーンを切り取っても手を抜いた部分が見当たらない(第1話の雪山のシーンから、第26話の無限城のシーンまで、CGとの親和性が高いのも、大きな特長だ)。
また、TVアニメではかなり珍しい「フィルムスコアリング(映像に合わせて作曲する手法。映画では主流)」を用いている点、脚本制作をufotable全体で手掛けている点も、映像、音楽、物語の融合性が抜群に高い理由の一つといえるだろう。なお、声優の演技に合わせてキャラクターの表情を描きかえることもしばしばだったという。
このように、アニメ『鬼滅の刃』は映像的な部分だけに絞っても、他の追随を許さない。人々を熱狂させるのも、納得だ。では、今後『鬼滅の刃』に続いていくアニメ作品を挙げるなら、何があるだろう? 個人的には、ぜひ『呪術廻戦』を推したいところだ。
現在TVアニメが放送中の『呪術廻戦』は、『鬼滅の刃』と同じく『週刊少年ジャンプ』の連載漫画が原作。人間の負の感情から生まれた「呪い」を祓(はら)う「呪術師」たちを描いたダークファンタジーであり、こちらも「動きの魅せ方」が突出している。制作を手掛けるのは、『この世界の片隅に』や『いぬやしき』、『BANANA FISH』のMAPPAだ。
白眉といえるのは第2話の「最強の呪術師」五条悟VS「呪いの王」両面宿儺で、五条が宿儺を手玉に取るさまが超ハイスピードで描かれる。流れるような体術の応酬が、建物を破壊しながら展開。カメラが360度回転し、五条の攻撃を受けた宿儺が空中回転を決める姿に、度肝を抜かれる。このパルクール的なアクションは本作の特徴といえ、第1話では主人公の虎杖悠仁が、校舎の窓ガラスを蹴破って呪霊に突撃していく。
ちなみに、「TVアニメ『呪術廻戦』公式スタートガイド」に掲載されている朴性厚監督、キャラクターデザインを担当した平松禎史による絵コンテを参照すると、カメラワークやコマ割りの細部に至るまで、指示が記入されている。
さらに、本作ならではの「呪術」や「呪霊」の表現、残酷描写の処理も興味深い。グロテスクな呪霊の数々は絵巻風のやや古ぼけた質感&シミがついたような色彩で描かれており、虎杖が呪力を拳に乗せて殴るシーンや、同級生の伏黒恵が使う式神も、呪霊とシンクロするような手描き感がある。また、第4話で虎杖の腕が吹き飛ぶシーンでは、切断面から噴き出す血潮が絵の具風のどろっとしたテイストに。その後、腕が復活するシーンでは、皮膚細胞がウゾウゾと這い出てくるような特殊な動きが付けられている(余談だが、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』での猗窩座の腕が再生するシーンは、切断面から指先が現れ、その後に腕が伸びていく表現を撮っており、両者の差異も興味深い)。
ちなみに本作も『鬼滅の刃』と同じく音楽にこだわりがあり、なんと3人の劇伴作家が参加している。『週刊少年ジャンプ』第44号(2020年)に掲載の音楽制作陣座談会では、原作者・芥見下々から出た「ビリー・アイリッシュやスタイリッシュな方向」や朴監督の「ヒップホップやロック」という意向を反映するために、音楽プロデューサーの小林健樹が3人体制を決断したと語られている。ちなみに、OPテーマはEve、EDテーマはALIが担当。非常にバラエティに富んだ布陣になっている(OP、EDの映像のクオリティの高さも話題を集めた)。
ダークな世界観や、「人を正しい死に導く」といったテーマ的にも『鬼滅の刃』とリンクするものがあり、本作も同じ2クール放送。原作者の芥見が相当なアニメ好きとのことで、アニメ用に新規エピソードを描き下ろしたり、演出法を提案したりと、クオリティの底上げに一役買っている(漏瑚役の千葉繁は、芥見の指名とのこと)。