映画館の収益は売店頼りって本当? 『鬼滅の刃』驚異的大ヒットを機に再確認したい映画館の意義

映画館の収益は売店頼りって本当?

 これも場所場所によって大きく異なりますので、あくまでも目安としてお考えいただきたいのですが、一般的にシネコンの座席稼働率の損益分岐点は、15%前後と言われています。つまり例えば300席の劇場で、45人しか入っていなかったら、まったくガラガラで「この映画館大丈夫かしら」とふつう心配になります。しかし、一応これでもギリギリでやっていける計算なのです。年間を通しての平均値でということですが。

 シネコン以前の、1つの建物で1つとか2つのスクリーンが普通だった時代は、25%とも言われていたそうですので、シネコンという業態はかなり効率化されているわけです。……それでもコロナ以前でも、全国でも動員力があるほうであるシネマシティであっても、閑散期の月は赤字になることもあるので、そうそうカンタンではないのですが。

 半年ほど前に、劇団四季の博多にある専用劇場が2022年5月末で契約を終了するというニュースが流れましたが、その記事で驚いたのは採算ラインが座席稼働率8割であるということでした。

 生のステージはこれほど高いところに採算ラインがあるんですね。よくミュージシャンが、ライブは入場料だけではなかなか利益が出ず、グッズの利益があってやっていけているという発言をしますが、これはまったくその通りでしょう。

 おそらくこの、生の舞台やライブの収益構造の話と、映画館のそれが混同されたのだろうというのが今回のテーマの結論です。

 繰り返しますが、苦境の映画館のために、飲み物や食べ物を買ってやろうというお客様は本当にありがたいのです。別に買わなくてもやっていけるんじゃんという風には、どうぞ思わないでください。このコラムの目的はあくまでも、誤解を放置するのではなく、フェアにご判断いただきたいということです。

 100%座席を販売する場合、劇場内にフードを持ち込めない現在のルールは、集中して作品に向き合いたいファンにとっては返ってありがたいことでしょうし、この連載でも以前書きましたが、遅かれ早かれ、いずれは映画館でも舞台やコンサートのように飲食禁止になるだろうと僕も考えていますが、しかし急にハンドルは切れません。しばらくは、コンセッションの売上げは絶対に必要ですし、場内に持ち込めないというルールにするならば、販売メニュー構成や飲食スペースの在り方を一から考え直さなければなりません。それには時間が掛かります。

 飲食業界では次々と業態を変えている会社が増えているというニュースが流れていますが、映画館は大がかりな設備ビジネスなので、急激な業態変更はハードルが高いのです。また扱う作品がだいたい同じになるので、一店舗だけ他とはまったく異なる斬新な営業スタイルにする、ということも難しい業態です。ですので「新しい生活様式」も、時代とともに変化していくことも重要なことですが、しかし変わらず求められることもある、というのを『鬼滅の刃』の大ヒットが再確認させてくれたのは大きかったですね。

 そう、映画ファンは、戻ってきてくれる。

 やはり映画館は映画を観に来ていただいてナンボです。そして、1本の大ヒットだけで、なにもかもが解決するわけではありません。健康に配慮していただきつつ、映画ファンのみなさんは特に、ぜひお近くの映画館のいろいろな作品に足を運んでくださいね。ポップコーンもぜひ、ロビーで。

 今年の初夏には、もう映画館なんて不要だ、動画配信で十分だ、不要不急だという意見も多かったですが、そうはなりませんでした。まだこの仕事には、僕の人生のすべてを賭け続けるだけの希望がある。

 You ain’t heard nothin’ yet !(お楽しみはこれからだ) 

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
全国公開中
声の出演:花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、日野聡、平川大輔
原作:吾峠呼世晴(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
コンセプトアート:衛藤功二、矢中勝、樺澤侑里
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:LiSA「炎」(SACRA MUSIC)
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
(c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
公式サイト:https://kimetsu.com
公式Twitter:@kimetsu_off

■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。

『シネマ・ワン』
住所:東京都立川市曙町2ー8ー5
JR立川駅より徒歩5分、多摩モノレール立川北駅より徒歩3分
『シネマ・ツー』
住所:東京都立川市曙町2ー42ー26
JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分
公式サイト:http://cinemacity.co.jp/

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