立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第43回

映画館の収益は売店頼りって本当? 『鬼滅の刃』驚異的大ヒットを機に再確認したい映画館の意義

コンセッション(売店)の収益割合は……

 今回のコラムは、これは果たして本当なのか、ということを検証していきたいと思います。大前提として、映画館としては飲食物を買っていただけることは本当にありがたいということです。それは言うまでもありません。ですが、どうも正確ではないと思われることを利用、とまでは言わなくても放置して映画ファンの善意に頼るのは気持ちのいいものではありません。そこはフェアでありたいじゃないですか。

 他館様のコンセッションの収益状況は、僕も知るよしがありません。またおそらく、場所場所によって大きく状況が異なるのであろうと思いますので、立川シネマシティの例を出しても、あるいは平均値をとったとこで有意にはならないでしょう。

 ですが、この説が正しいかどうかは、中の人にしかわからない数字ではなく、ネットなどで公になっていて、どなたでもその気になれば調べられる数字で検証できます。

 まず、最も基本的な数字として、映画の入場料金の配分はどうなっているかということです。これもネットで検索すれば出てきますが、配給会社と映画館の取り分は概ね半々です。これはほぼ間違いない数字です。作品によって分率は異なるのですが、平均値を取るとほぼ山分けになるかと思います。

 ということは映画館の入場料収入は、平均入場料単価は2019年度で1,340円ですので(参照:映画製作者連盟サイト)、1名入ると、平均670円の売り上げがあることになります。

 この670円というのが検証する上でのベースの数字になります。売店の利益は、果たしてこの数字を超えるのか、否か。……というか、大げさに振る必要もなく、もうこの時点で勘の良い方やビジネスパーソンなら「超えるはずない」と直感的にわかるのではないでしょうか。

 この670円という金額は、いわゆる「粗利」です。「粗利」というのは、飲食で言えば一般的には「売り上げ金額から原価を引いたもの」ということになります。原価というのは商品ごとに大きく異なりますが、飲食であれば、メニュー全体の平均原価を30%〜40%に収めるのがセオリーです。

 ではざっくり映画館の売店の飲食物が粗利率70%として、入場料の粗利である670円に達するにはいくら売ればいいのか? これは960円ということになります。これほどの金額、映画館の売店の飲食で使いますかね。しかもですよ、平均客単価でということです。

 映画を観に来たお客様のうち、いったいどれだけの方が売店で飲食物をお求めになるか。これは小さなお子様向け映画や中高生ターゲットの映画だと割合が跳ね上がります。大人向け、シニア向けとなると、ガクッと下がります。

 仮に5割の方が購入されるとしましょう。これは相当高い購買率です。だとすると平均客単価で960円を出そうと思うと、お一人様あたり1920円お求めいただく必要があります。

 これは多くの劇場で、ホットドッグ2本とフライドポテトとLサイズのドリンクの組み合わせでもまだ達成できない金額でしょう。これが購買率が3割かそれ以下だったら? そして大人向けの作品で、売れてもホットコーヒーぐらいで、ポップコーンやホットドッグやチュリトスはさほど売れないとしたら、売店の売上げはいくばくかでしょう。

 映画を観なくても映画館の売店でフードやドリンクを買うお客様もいるでしょう。しかし、それは極々わずかな例で、こういう計算に入れるほどの数字にはなりません。

 いや別にコンセッションの売り上げが、入場料を超える超えないではない、入場料だけの利益では厳しいから、その上に乗っかるコンセの売上げが重要なのだ、という意見もあるでしょう。これは、もちろんその通りです。いつだって利益は上に乗っかるに越したことはありません。しかし、映画館の座席稼働率の採算ラインは、実はかなり低いところにあります。

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