立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第43回
映画館の収益は売店頼りって本当? 『鬼滅の刃』驚異的大ヒットを機に再確認したい映画館の意義
東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第43回は“映画館の収益は売店頼りって本当?”というテーマで。
『鬼滅の刃』驚異的大ヒットに救われた映画館
コロナ禍で壊滅的な打撃を受けている映画館業界ですが、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の驚異的な超特大ヒットに、本当に救われています。
緊急事態宣言明けの再開直後の6月は、立川シネマシティでは前年同月比で2割に満たないという、さてそろそろ閉館の貼り紙の下書きでも始めるか、と思わせる惨憺たる状況でしたが、ようやく10月には7割程度にまで戻ってきました。
映画館として期待してしまうのは、今回の『鬼滅の刃』の劇場版は、純粋なアニメ版の続きだということです。これはあまり例をみないパターンです。例えば同じ『週刊少年ジャンプ』の『ドラゴンボール』や『ワンピース』の劇場版は、本編のストーリーとは関係のない物語で作られてきました。
ところが『鬼滅の刃』は本編ストーリーの直接の続きであり、それが「映画館に行かなければ続きを観られないのか」とファンの反発をあまり買っていないことが驚きです。続きは続きでも、テレビドラマでもよくありますが、いわゆる「完結編」が劇場版化されることはこれまでも多数ありましたが、完全に途中のエピソードが映画化されるのは大変に珍しいことです。
これが受け入れられているのは、元々放送されていた深夜時間帯にリアルタイムで観ていた方よりも、動画配信サイトなどで観た方が多いことがその理由なのでしょうか。
このことは「テレビ版」と「映画版」のダイレクトな鑑賞体験比較が行われるということであります。ご自宅でスマホやテレビで観た体験と、暗闇で日常を遮断されて全集中で観る上に、ハイクオリティで大きな映像と音響で味わうことで激しく心が動く体験、その圧倒的な差を多くの方が体験したわけです。このことで、いつかの僕がそうだったように「映画館ってすごすぎる」と人生が変わってしまう子供たちがきっとたくさん現われることを願います。
とはいえこのまま順調に回復していくかというと、そうそう上手くいくとは思えません。なにしろアメリカからの大型新作の公開が延期延期の連続だからです。もちろん日本でもまだ予断を許さない状況が続いていますが、欧米のコロナ被害は比にならないほど甚大です。ここにきて再び感染者の急増が報じられており、クリスマスシーズンに公開が予定されている大作たちもどうなるかわかりません。『鬼滅』が落ち着いてきたら、次は? ……苦境は続きます。
映画館の状況を厳しくしているもうひとつの原因は、感染拡大予防ガイドラインによる飲食物販売に関する規制です。座席を全席販売する場合は、劇場内での食事は禁止、飲み物のみ、というルールですね。一席空けの50%販売であれば、食事も可になります。
この規制により、シネコン各社の対応は分かれています。100%販売に踏み切るところ、休日だけ100%で平日は50%のところ、50%を継続しているところ。都市部と地方で分けているところなど様々です。
正直『鬼滅の刃』公開以前は、100%販売したところで、ごく一部の作品の観やすい時間帯をのぞいて、都市部のシネコンですら小さなスクリーンは別として、動員が50%に満たないことも多かったのでした。
ですから1席空け50%販売を継続したところも多かったわけですが、『鬼滅の刃』の登場で1日に20回、30回と上映しても満席連発というような、とんでもない状況が生まれたので、このルールを見直すところが増えてきたわけです。
それを受けて少し前に「映画『鬼滅の刃』大ヒットの裏でポップコーン業者が悲鳴「潰れるかもしれない…」 〈週刊朝日〉」というニュースが流れたわけですが、この手の映画館の収益に関するニュースが流れるとき、必ずSNSやコメント欄などでまことしやかにささやかれるのが「映画館は入場料収入だけでは厳しく、コンセッション(売店)の収益でなんとかやっていけている」という説です。