山崎育三郎が「栄冠は君に輝く」に込めた思い 『エール』記念すべき100話は圧巻の歌唱回に

 『エール』(NHK総合)記念すべき第100話。山崎育三郎演じる久志が歌った「栄冠は君に輝く」がお茶の間に響き渡った。

 戦争が終わってから3年、傷ついた人々は少しずつ前に進んでいた。裕一(窪田正孝)は自責の念を乗り越えて「全国高等学校野球選手権大会」の曲作りに踏み出し、音(二階堂ふみ)もオペラのオーディションを受けるために歌のレッスンを受け、智彦(奥野瑛太)も鉄男(中村蒼)もみんな、それぞれの道を歩み出す。けれど戦争が残した悲しみは深く、すべての傷が癒えるにはまだまだ時間がかかった。立ち直れないままの人もいる。その一人が久志だ。

 久志は裕一が作った戦時歌謡「露営の歌」の歌手として有名になっていたことから、慰問先の福島で“戦犯”の汚名を着せられ、父はその心労がたたって亡くなったと噂されていた。自分の歌った曲が誰かを戦争へと駆り立てた――。裕一が長く苦しめられたその罪悪感に久志もまた、苛まれていたのだ。

 そのことに責任を感じていた裕一は何度も久志の元を訪れ、ふたたび自分の作った曲を歌ってほしいと説得する。「夜更けの街」は酒浸りだった自身と重なることもあり、久志は歌うことを承諾したが、「栄冠は君に輝く」は球児の希望が詰まった曲。こんな希望に溢れた曲、歌う自分が想像できない。同情されたくない。久志はそう言って、裕一の依頼を断った。裕一はそんな久志を甲子園球場に連れていく。

 実は、「栄冠は君に輝く」の作詞を担当した多田良介は試合中に追った足の怪我により野球を断念。自分にできることは未来の若者を応援することだと、書いた一曲が野球大会の歌に選ばれた。多田の詩を見て「負けた人へのあたたかい眼差しも感じる」と裕一が思ったのは、多田自身の経験が活かされていたからだ。多田のモデルになった加賀大介も実際に野球中の怪我で右足の膝から下を切断、多田を今回演じた元読売ジャイアンツの選手・寺内崇幸も2018年に下半身の故障で戦力外通告を受けている。

「どん底まで落ちた僕たちにしか伝えられないものがあるって信じてる」

 どんなに努力しても勝つ人もいれば、負ける人もいる。努力の末に勝った選手を讃え、同時に悔しさを噛みしめる負けた選手に寄り添える歌を届けるためには、裕一や多田と同じようにどん底を経験した久志の協力が必要だった。球場のグラウンドの真ん中に立ち、裕一は「未来ある若者に、一緒にエールを送ろうよ」と叫ぶ。その言葉にようやく心動いた久志は歌で裕一の気持ちに答えた。

〈若人よいざ 一球に一打に賭けて 青春の讃歌を綴れ ああ 栄冠は君に輝く〉

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