『Red』三島有紀子監督が語る、夏帆×妻夫木聡との共闘 「感情を“共有”した先にみえるもの」

“夢みたいなリアルな世界”に立ち向かうしかない

――先ほど「誰と何を見ながら生きていきたいのか」というお話がありましたけど、この映画の公開後、いわゆる「コロナ禍」に入って。その中で、本作が問い掛けるテーマというのは、よりいっそうリアルに感じられるようになった気もします。

三島:そうかもしれないですね。いつ、普段の生活が突然失くなってしまうかもしれない世界で、誰もが有限を感じたと思うんですよね。だからこそ、たとえばきれいな月を見たときに、それを誰と一緒に見上げたいのか……。一瞬一瞬を誰と過ごすのかっていうのはより考えるようになった気がします。そして、そうやって誰かと一緒に月を見上げている時間というのが、実は何よりも尊い時間だったし、自分自身の場合は、そんな瞬間がいつ失くなるかわからないから、やがて確実になくなるから、記録するというということが大事だな、と、この「コロナ禍」の中で、特にそう思いましたね。

――ちなみに監督は、この自粛期間中は、どんなことを考えながら過ごされていましたか。

三島:まだ完全には終わってないので、今もいろいろ見つめ続けているという感じなんですけど、やっぱり最初に思ったのは、今言ったように、人に会って一緒に何か見たり、一緒に何かを感じたり作ったり共有している時間っていうのは、ものすごく自分にエネルギーを与えていたんだなっていうことでした。あと、私、非常事態宣言が出されている期間に誕生日を迎えたんです。その日はなぜか眠れなくて、ずっと起きていたんですけど、朝の4時ぐらいに、どこからか、女性の泣き声が聞こえてきたんですね。

――何の話が始まるんでしょうか……。

三島:(笑)。普通に泣き声が聞こえてきて。で、どっから聞こえてくるんだろうと思ってベランダに出て、その泣き声をずっと聞いていたんですけど。もしかしたら、彼女の泣き声は、私の知り合いの叫びかもしれないし、友達の叫びかもしれない。私自身のものかもしれない。今この瞬間も、泣きたい感情を持っている人たちが、世界中にたくさんいて、これはそういう人たちの泣き声かもしれないっていう。人類みんなの泣き声にも感じました。で、そう思ったときに、何かこの泣き声の感情に寄り添いたいと思ったんです。それで、ベランダでずっと、その泣き声を聞いていたんですけど、そしたら背中をさすってあげているような感じで、それがだんだんおさまってきて……泣き止んだときに、空が白んでちょうど夜明けを迎えたんです。その瞬間に、自分のやりたいことっていうのは、感情に寄り添うことだったり、その感情を記録することなんだってあらためて思ったんです。私の場合、映像で残すということなんですけど。そういうふうに思ったっていうのが、個人的にはとても大きかったかもしれないです。

――その思いはいずれまた、映画という形で表れてくるのでしょうか?

三島:いずれ、別の形で劇映画に反映されるとおもうんですが……。実はその時始めたのは、ワークショップを受けに来てくれた約30人の俳優とリモートで話して、日常を撮影してもらう、ということでした。みんながこの時に何を感じていたのかを記録して、残そうと思ったんです。ただ、みんな役者なので、どんな感情が生まれているのかを聞いて、それが生まれる設定だけ決め、撮ってもらうことにしました。例えば、元気のなかったパートナーがコロナ渦でむしろ生き生きしているのを嬉しそうに語る役者さんの姿を見て、パートナーについてのビデオ日記みたいなものをつけてもらったり。ある俳優が、好きな人とリモートで会話していくうちに本当に話したい人が見えてきた……と言うので、好きな相手役を決めてその人とリモートで話している時にどんなことをしたくなるのかやってみてもらったり。共通のシチュエーションは、朝4時に女の人の泣き声がどこかから聞こえてくる。声は事前に録音してそれを実際に聞いてもらい、その時の感情の動きを記録してもらいました。音はバラバラだし、いろいろ技術的な問題はもちろんありますが、その時にしか撮れないものが撮れていて、その人の本質が見えて面白いなと思います。自主映画ですし、いつ完成させられるかわからないですが、いい形で発信したいと考えています。

――映画そのものは、今後どうなっていくと思いますか? 作り手はもちろん、受け手である我々の感覚も、いろいろと変化しているように思います。

三島:自分は、わからないことがわかっているという感じでしょうか。映画で描かれる物語はいつも、先が何も見えない所から始まっていますよね? 想像もしていなかったことが起こり、入ったことのない世界に迷い込む。映画は“リアルな夢”ですしね。だから、そんなとき、あの映画の主人公はどう生きたか、を見つめ直しています。そして、映画が作れない時代、かつての映画人はどうやって作っていたのか。その2つをもう一度辿り、この見えない世界を生きていきたいなと。その中で、改めてどんな物語を発信するのかを考えて脚本を書いています。映画はずっと我々の生きていく時間、生活、人生と共に存在していきますからね。受け手側も、いつどんなことが起こるかわからないというのが、よりリアルに感じることになるのかもしれませんね。人間愛を信じたい気分にもなっているのかもしれません。いずれにせよ、映画を作る人間としては、何も見えないこの世界の中で、ちゃんと思考して、目の前の“夢みたいなリアルな世界”に立ち向かうしかないのだろうなと、うすぼんやり考えています。

――なるほど。「コロナ禍」によって社会も大きく変容いたしました。改めて現在の状況を三島監督はどのように捉えていますでしょうか。

三島:「コロナ禍」というのは、まだ継続している話だから、自分は見続けていきたいですね。この世界がどうなるのか。自分の中に生まれるもの、皆さんの中に生まれるもの、すべて、逃さないように、そらさずに、見つめたいです。もちろん、自分の作品も撮影延期になりましたし、経済的なことを考えると厳しいこともあると思いますが、新しい形が生まれている感じがしますし、生んでいこうとも思います。より、ほんとに撮りたい人が撮っていける時代になったらいいなと考えますし、低予算枠も増えていくでしょうしね。いずれにしても、どんな場所、どんな世界であっても存在するであろう愛を見つけて、撮っていきたいと感じています。

■リリース情報
『Red』
10月2日(金)Blu-ray&DVD発売 ※同日DVDレンタル開始
Blu-ray:5,800円(税別)
DVD:3,800円(税別)
●Blu-ray映像特典
・メイキング映像
・イベント映像集(完成披露プレミア上映会/ 公開直前女性限定試写会/公開記念舞台挨拶)
・予告編集(60秒予告/30秒予告/15秒予告)
●封入特典
・リーフレット(16P予定)
●初回生産分限定仕様
・アウターケース

出演:夏帆、妻夫木聡、柄本佑、間宮祥太朗ほか
監督:三島有紀子
原作:島本理生『Red』(中公文庫)
脚本:池田千尋、三島有紀子
企画・製作幹事・配給:日活
制作プロダクション:オフィス・シロウズ
企画協力:フラミンゴ
発売・販売元:ポニーキャニオン
(c)2020『Red』製作委員会
公式サイト:https://redmovie.jp/

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